火曜日の幻想譚 Ⅴ
513.死闘
「なあ?」
「はい?」
「……わしら、こうやって戦うの、何回目だろうな」
「さあ、もう数えることすら忘れてしまいましたね」
「そっか。そうだよな……」
「なんすか、なんかあったんですか?」
「いや、なんもないけどさ、最初におまえらと戦ったときのことを思い出して」
「最初、ですか」
「そう。初めてあったおまえらは、そりゃあもう初々しくてさ。わしのどんな攻撃にもビビって、万全の防御をしてさ、血相変えて攻撃してくんの」
「ちょっとぉ、恥ずかしいんでやめてくださいよ」
「そんなことを言ったって、思い出したもんはしょうがない」
「で、それがどうしたんですか? またあの頃の僕らに戻ってくれとでも?」
「いや、ただ、思い出しただけだ……」
『……そこだっ、額のクリスタルが弱点だな!』
『ぐっ! このわしにひざをつかせるとは、多少はやるようだな。では、わしも真の姿で相対することにしよう。おまえに対する最大限の礼儀としてな!』
『なにぃ! 魔王の姿がどんどん巨大にっ!』
「……このやり取りも、何度やったっけか」
「ねえ、魔王さん、今日どうしたんすか? なんかお悩みですか? それとも、負けっぱなしでおかしくなっちゃったんすか?」
「いや、おまえら、と言うかおまえ、いつの間にか、ここに一人で来るようになったよな?」
「ええ。そうですね」
「わし、おまえ1人で倒せるくらい弱いのに、魔王、名乗ってるってどうかと思ってさ」
「いや、それはしゃあないですよ。もうあなたのパラメータも行動パターンも、完全に解析されてるんですから」
「それにしたって、一応ラスボスなんだから。力自慢のあいつとか、回復役のあの娘とかさ、誰も仲間にせずここに来るか、普通?」
「それも時代の流れっすよ。今はネットに上げて、みんなにプレイを見てもらう時代ですからね。ただクリアするだけじゃなく、何かしばりをつけないと目立つことなんかできないんですよ」
「だからってさあ、魔王としてのメンツをここまで踏みにじらなくてもいいじゃないか」
「僕に言わないでくださいよ。……それに、今回のしばりは僕の一人旅ってだけじゃないんです。アイテムの使用も店での購入もしばってるんですよ。ああ、もちろんイベントアイテムの使用だけは認めてますが」
「……そっか。なんかもう形無しだな。全てを投げ捨てられたら、どれほどいいことか」
「そんなこと言わないでください、大丈夫です。あなたは立派で強大な魔王ですよ。僕が太鼓判を押しますから、えいっ!」
『ぐふっ! よくぞわしを倒した……。だが、何百年、何千年、何億年たとうと、わしはよみがえり、貴様らを絶望にたたき落としてくれるぞ……』
「まあ、リセットすりゃあ、いくらでもよみがえるんですけどね。さあ、エンディング、エンディングっと。今回は何PV稼げるかなぁ」