火曜日の幻想譚 Ⅴ
514.同士の行く末
調子が優れなくなって、○△科に通院をするようになってから、分かったことがある。
どうしようもなく気持ちが落ち込んでいる日。ふとベランダを見たら、ちょうがひらひらと飛んでいた。
(……なんか、危ない)
妙な胸騒ぎを覚えたせいで、しばらくその美しいさまをながめていた瞬間。羽の動きがぴたっと止まった。そして急にジタバタともがき始める。そこに忍び寄る黄色と黒のおぞましい悪魔。
「…………」
言葉にならぬ悲痛な思いを胸に、僕は壁に掛けてある時計に目をやる。そろそろ病院の時間だ。支度を終えて僕が家を出る頃、ちょうちょは女郎ぐもの毒牙にかかり、もう既に羽だけになっていた。
病院での診察を終え、薬局で薬も手にした僕。その目の前に、一匹のかまきりが立ちふさがった。その勇敢な昆虫は大きく鎌を振り上げ、果敢に僕のことを威嚇してくる。
(……大丈夫。少なくとも僕は、ね)
そう心の中でつぶやいて、その小さな勇者を左に避けてやり過ごす。だが、その直後、急いで走ってきた若者に、グシャリと思い切り踏みつぶされた。
「…………」
ため息一つと、やりきれない思い。アスファルトに体液をまき散らしながら、消えゆくかまきりの命を見ながら、僕はそこを立ち去ることしかできなかった。
ゆううつな気分をどうにか押し殺し、帰りの電車に乗るため、駅へと歩いていく。そんな僕の前を歩くは、1人のみすぼらしいおじさん。
(ああ、線路に……)
僕らはプラットフォームに着く。そして電車がやってくる、その瞬間。
「…………」
僕ら○□病の者が伏し目がちなのは、気分が落ち込んでいるからだけじゃない。同士が、これから同じ運命をたどる同士が、本当はうっすらと見えてしまうからなんだ。