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火曜日の幻想譚 Ⅴ

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515.息子のいたずら



 仕事で使う重要な資料がなくなった。

 明日、朝一番の新幹線で向かう出張先で発表するため、家に持って帰ってきたはずなのだが、寝る前に最終確認をしたら、かばんの中からこつ然と消えていたのだ。今日の夕方、会社を出る直前に入れたことははっきり覚えているのに。
 資料自体はまたプリントアウトすればいいが、これは明らかに情報漏えいだ。あわてて妻をたたき起こし、かばんから取り出してないか聞いてみるが、妻はそんなことはしていないの一点張り。

 たたき起こされた上に、犯人だと思われて不機嫌な妻とともに家中を探し回る。タンスをひっくり返し、食器棚に積まれた皿の間を一枚ずつ確認し、玄関の靴の中まで調べ回る。しかし、資料はどこにも見当たらない。そうしているうちに、東の空が少しずつ白んでくる。

 新幹線の中で会社に連絡して、出張をこなしつつ沙汰を待つことになるのか……。下手したら一発アウトの可能性もあるな……。目の前を暗雲が覆い尽くしたその瞬間。遠くのほうから妻の声がした。

「あなたー、これー?」

 駆けつけてみると、今年1歳になる息子のおもちゃ箱、積み木やミニカーがごちゃごちゃと詰め込まれているその中に、シワシワのズタボロで資料はその身を横たえていた。いたずら盛りだ、きっと興味本位で見てないすきに、かばんから取り出してしまったのだろう。

 息子は近くのベッドですやすやと寝息を立てている。起こして叱るわけにはいかないし、結局は自分の不注意でしかない。そんなわけで、迷惑をかけた妻に平謝りで謝っていたら、家を出る時間になってしまった。仕方なく、私はろくに睡眠をとっていない状態で家を飛び出す。

 新幹線の中、眠い目をこすりながら朝食の駅弁を食べつつ思う。息子にとっては、重要資料もしょせん、遊び道具でしかないんだな。

 きっと、あの子はスケールの大きい子になるぞ。よし、お土産におもちゃでも買って帰ってやるか。そう思いながら、目的地に付くまでの間、仮眠を取ろうと背もたれを倒して目をつむった。

 そして、そんな息子にノートパソコンのケーブルをかじられて、やむなく借りなければならなくなったことに気が付いたのは、客先での打ち合わせ直前だった。


作品名:火曜日の幻想譚 Ⅴ 作家名:六色塔