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火曜日の幻想譚 Ⅴ

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516.サイコロカレンダー



 会社の同僚だったその男のデスクには、いつも一つのサイコロカレンダーが置かれていました。

 数字が書かれているサイコロ型の木片を四つと、曜日が書かれている木片を一つ選んで、日時を作り出すというタイプ。いわゆる万年カレンダーと呼ばれているものの一種です。

 彼は、このカレンダーをこよなく愛しているようでした。このシステムだと、毎日、サイコロの面を変えなければならないのですが、彼は飽きることもせず、まめに日付を変更し続けていました。

 彼のそのカレンダーを更新するという行動を、僕らは度々からかったのをよく覚えています。

「ずいぶんと古風なことに熱中しているね」
「それより、さっさとあの書類を仕上げてくれよ」
「ものごとを継続する力だけは立派だな」

 ここだけを切り取るとややきついかもしれませんが、本気で彼をあざ笑ったものではなく、多くはたわいもない冗談の中から飛び出した言葉たちでした。僕らなら、そんなものを卓上に置いても、すぐに飽きてしまうことは想像に難くありません。ただでさえ、今の世の中はいろいろなものが日付を表示してくれます。腕時計にも掛時計にも日付表示機能はありますし、デスクに置いてあるパソコンにも日付は表示されています。それ以前に、みんなスマホを持っているのです。わざわざ卓上のカレンダーをちまちま変える必要など、どこにもないのですから。
 それを彼は毎日、ちゃんと続けているのです。要するに僕らは、そんな細かいことをよくちゃんとできるよな、という尊敬の念が根底にあった上で、彼をやゆしていたのでした。

 僕らのそのからかいに対して、彼は何か言いたげなようでした。しかし、何か言おうとするたびに我慢して愛想笑いを浮かべ、分からないやつは笑っていればいい、そんな態度を終始取るのが常だったのです。


 ところが、ある日を境に、彼は突如として会社に来なくなってしまいました。元来、彼はまめな性格でしたので、休む時は必ず連絡を入れていたようですが、今回は何の連絡もありません。不審に思った上司がコンタクトを取ろうと試みましたが、どうやっても連絡がつかないのです。

 数カ月がたった今も、彼は行方不明のままどこにいるか分かりません。会社としてもそのような社員を雇ってはいられなくなってしまいました。でも、私たちは、そのとき彼が来ていないデスクに変化が起きているのを見つけました。件のサイコロカレンダー、その日付が変わっていたのです。

 しかし、変更された日付はその日ではありませんでした。それどころか、日付の体をなさない日付、00月42日(水)とか、16月04日(月)といったあり得ない日付を示しているのです。もちろん誰かのいたずらではありません。誰かが日付を直しても、気が付くといつの間にか元の不可解な日付に戻っているのです。

 これは彼の仕業なのでしょうか。もしかして彼は、われわれが使用している暦の概念とは違う場所にいるのでしょうか。そんな考えがふつふつとわき起こってきます。解雇が決定した後、カレンダーは彼の実家に郵送されましたが、彼の母いわく、そこでもあり得ない日付を示しているとのことでした。

 いったい彼はどこにいるのでしょう。そして、どうやってカレンダーを変えているのでしょう。さらに不可解な日付の謎……。何も分からないまま、僕らは彼が再び姿を見せるのを待ち続けているのです。


作品名:火曜日の幻想譚 Ⅴ 作家名:六色塔