火曜日の幻想譚 Ⅴ
527.綾絵さんとジェラートと
近所でアイス屋を営んでいる綾絵さんは、毎日ジェラートの仕込みに忙しい。
彼女の一日は、おおよそこんな感じだ。
彼女の朝は早く、毎朝5時に起床する。そして、起きてすぐ一生懸命ジェラートを作り始める。作るジェラートの数は常に30個。なので、1日30個限定の超がつくレア商品だ。
お昼少し前の11時に彼女は店を開ける。店を開くと、またたく間に30個のジェラートは売り切れてしまう。最近、店は30分も開いていることはない。売る商品がなくなってしまうのだから、当然のことだろう。
午後2時。昼食後に彼女は、隣町へと買い出しに出掛ける。明日のジェラートの材料を買い求めるために。
そして、夕食後の夜10時。明日の分のジェラートの準備をし、彼女は眠りにつくのだ。
そんな彼女にほのかな恋心を抱いていた俺は、先日、思い切って彼女に思いの丈を伝えた。だが、結果はあえなく玉砕だった。いわく、「今の生活とお店を大切にしたいから」ということだそうだ。
どうせ男がいるんだろうという思いと、多分の下心と、もう一つ、ある別の思惑で、彼女の生活パターンを調べたのが、上記の結果というわけだ。
男の影はないようだし、俺との交際を断った理由にうそ偽りはなさそうだ。しかし、逆にその透明感、ピュアさ全開な様子が、薄汚さ故に交際を断られたような気がして、俺のはらわたを煮えくりかえらせた。
別の思惑━━もうこれを決行するしかない。そう思った俺は着々と準備を進め、今、すやすやとベッドで眠る彼女の傍らに立っている。
「綾絵さん、あなた自身をジェラートにしてあげるよ」
巨大な冷凍庫に、胎児のような格好で横たわる彼女を想像しながら、俺は彼女の額にめがけて、思い切り千枚通しを振り下ろした。