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火曜日の幻想譚 Ⅴ

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532.いたずら坊主の改心



 今日、法事に来るお坊さんに、ちょっとしたいたずらをしてやろうと思った。

 普段からいたずら好きで通っている俺だが、さすがにお坊さんに仕掛けたことはない。だが、やるからには、ど派手なものをぶちかましたい。

 そうだ。お坊さんが目をつむってお経を上げているすきに、木魚をドクロにすり替えてしまおう。つるっぱげにつるっぱげをたたかせて笑ってやろうという魂胆だ。

 早速、お坊さんがやって来る。まるまると太って肌がテラテラした、いかにもいいもんを食ってそうなおじさん。これは、あたふたさせたらどうなるか見ものだ。

 茶の間に上がり、しばらくしてから読経が始まった。目をつむって経を唱える坊さん。後ろの家族もみんな目をつむっている。そこにおもちゃのドクロを持ってこっそり忍び寄り、たたくタイミングをうまく見計らって瞬時に木魚とすり替える。明らかにたたく音が変わったのを確認して、すぐさま隣の間に退避した。気付いて怒り出すかと思ったら、お坊さんのやつ、気付かずドクロをたたき続けているようだ。意外に間が抜けている。

 隣の間で声を殺して笑っているうちに、いつの間にか読経は終わっていた。すると、お坊さんはドクロを抱え、くるりと後ろを振り向いた。そして、家族に向かって、いや、隣の間にいる俺にも聞こえるぐらいの声でこんなことを言い出す。

「このいたずら、なかなかセンスがありますね。実際、がいこつの木魚っていうのがあって、文化遺産にもなってるんですよ。まあ、あっちは普通の木魚をがいこつがたたいているんですがね」

そして、ドクロの頭頂部をつるりとひとなでし、さらに付け加えた。

「死者でお布施をいただいている僧侶が、ドクロをたたいて経を上げるだなんて、皮肉が効いてるじゃないですか。ねえ、そう思いませんか、ご家族の皆さん」

 そのとき、気付いた。このお坊さん、いたずらをした俺があとで怒られないように、そして家族の顔もちゃんと立つように、いろいろと配慮をしながら話しているんだってことに。

 そこで出てきた言葉が、ある種の自虐とも取れる上記の言葉なのだ。俺はそのことが分かると、すっかりお坊さんに感じ入ってしまい、それ以後、いたずらをきっぱりやめることにした。


作品名:火曜日の幻想譚 Ⅴ 作家名:六色塔