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火曜日の幻想譚 Ⅴ

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537.もみあげ、どうしますか?



 髪を切っている際に話しかけられたとき、どうすればいいだろうか。

 散髪中の雑談話、あれもなかなかに厄介だが、最近、そちらはどうにかなるようになってきた。行きつけのお店なら、僕のこともある程度分かってくれているし、無難な世間話程度ならどうにかできる。なので、そこは問題ない。

 しかし、髪を切っている最中に必ず聞かれる一言がある。あれが結構な難関なのだ。

「もみあげ、どうしますか?」

もみあげ、顔の側部に生えている毛のことだ。これをどう処理するか、必ず判断を仰がれるのだ。

 しかし、僕は自分で髪を切った経験がないし、そもそもあまり髪形に興味がない。もうとにかくよきにはからってほしい立場の人だ。なので、完全に棒読みで「普通にしといてください」的なことを恐る恐る言う。いつも切ってくれる方は心得たとばかりに、カミソリでもみあげの中ほどの毛を一部そり、印をつけるのだ。

 しかし、「もみあげ、どうしますか?」という一文は、よく考えるとよく分からない。オープンクエスチョンなのか、クローズドクエスチョンなのかも分からない。

「もみあげ、どうしますか?」
「はい」

なんか、これで通じてしまいそうな気がしてしまう。いや、こんな回答、怖くてしたことはないけれど。

 いやいや、自分で書いといてなんだが、そんなことはない。れっきとしたオープンクエスチョンだ。ならば、どのように答えたって構わない問いのはず。

 では、他の人は一体、どのような答えをしているのだろうか。

「上から86、58、88です」
「それより僕と踊りませんか」
「麺硬め、油少なめ、味濃いめ」
「これ、読まれれば、初投稿です」
「ご一緒にポテトはいかがですか」
「ぷちょへんざ」

 みんな、こんなことを言って、かっこいいもみあげにしてもらっているのだろう、うらやましい。

 僕はこんなことを言えず、普通のもみあげで一生を終えるのか。ちょっと悲しい気もするけど、まあ、仕方がない。


作品名:火曜日の幻想譚 Ⅴ 作家名:六色塔