火曜日の幻想譚 Ⅴ
595.妻への愛
妻をこの上なく愛している。
できれば、毎時間、毎分、毎秒でも一緒にいたい。どんなことだって打ち明けられるし、どんな話だって聞いてあげられる。それぐらい首ったけだし、そんなパーフェクトな妻にふさわしい夫となるべく、日夜、努力も欠かしていないつもりだ。
だが、最近ちょっと困った問題が起きている。そんな大切な妻が、やたらと外出をするのだ。やれ、パートに出るだの、友だちと会うだの、同窓会だの、お父さんの体調が悪いからちょっと実家に帰るだの……。
そんな頻繁に家を空けられたら、こっちが困ってしまう。悪い虫が付きかねないし、何より家に帰って真っ先に妻の笑顔を見るべきは夫の私なのに、その笑顔を別の人間に向けることになってしまうではないか。そんなのは断じて許しがたいし、認められない。
なにか良い手はないもんかと考え込み、何日か考えた結果、一つの方法を考えだした。私の、妻以外の唯一の趣味。その腕を発揮する機会が久々にやってきたようだ。
それから一週間ほどがたち、目覚めた妻。彼女は自分の部屋が寝る前より狭く、さらにガラス張りになっていることに気付く。あわてて起き上がると、頭上のほうのガラスが細くなっている。さらにその上に出口らしきものが見えるが、とてもじゃないが通り抜けることが無理な上、金属製のフタでしっかりと栓がされているのだ。
結婚する前まで、私の趣味はボトルシップを作ることだった。細いびんの口からパーツを差し入れて、中で船を組み立てる。そういう作業を年がら年中やっていたのだ。4畳程度の大きさのびんを職人に作らせることさえできれば、そこに一晩で妻を入れて、ボトルシップ、もとい、ボトルワイフを作ることなど、私にとっては容易なことだ。
これなら、もう妻を愛でるのは私だけ。さあ、命が尽きるまで愛してやるぞと、私は、びんづめの妻に向かってささやいた。