小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」

火曜日の幻想譚 Ⅴ

INDEX|54ページ/120ページ|

次のページ前のページ
 

547.チャイム



 徹夜をしてクタクタなので、朝っぱらから寝ることにした。

 明るい日差しが入り込んでくる中、布団を敷いて早速潜り込む。朝寝というのは気持ちがいいもんだ。それが夜、寝てない状況なんだから、多分、普段の朝寝の数十倍は気持ちがいいはず。高杉晋作もこれには適わないだろうと思ったが、あっちは名うての遊女が隣にいて、きっと数百倍は気持ちが良かったであろうことを思い出し、考えるのをやめる。

「ピンポーン」

 寝入りばなにチャイムが鳴り、起こされる。シカトしようかと思ったが、起きてしまったので仕方なく玄関に行きドアを開ける。アパートの隣家のおばさんが板を持っていた。なんてことはない、ただの回覧板だ。
 手早く内容を読むと、ゴミの出し方をちゃんとしろとの仰せ。普段からちゃんとしてるわと、ぼやきつつはんこを押して次の家に届ける。さあ、今度こそ眠れるぞと布団に入って目をつむった瞬間。

「ピンポーン」

 まただ。こんなことってあるか。仕方なく出てみると、今度は誰もいない。確かに音が聞こえたはず。おかしいなと思いながら、再び布団に潜って目をつむった。

「ピンポーン」

 すぐさま飛び起きて、ダッシュで玄関へと向かう。扉を開けるもやはり誰もいない。いたずらか? じゃあ、もう次は出なくていいな、と思いつつまた布団に入り目を閉じる。

「ピンポーン」

 ふん。どうせいないんだろう。そう思って無視を決め込む。

「ピンポーン、ピンポーン、ピンポーン……」

 多少、心にざわつきを覚えながら、チャイムをBGMに眠りに落ちていった。

 夕方。
 ぐっすり寝て起きた私は、まだ頭の中にチャイムが鳴り響いているのに気が付いた。

「ピンポーン、ピンポーン、ピンポーン……」

頭をブンブン振るが、脳内のチャイムは治まることを知らない。仕方なくトイレへ行くが、用を足したところで正常に戻るくらいだったら、みんなそうしている。


 こうして翌日になり、2日目も過ぎ、3日がたった。頭の中のチャイムはいまだに鳴り止まない。どうやら実際にお客さんが来ていたようで、郵便受けには不在票が山ほど入っている。ご近所さんは、僕が居留守を使っているとうわさしあっているようだ。

「何個目に鳴ったチャイムが本物かなんて、分かりっこないだろうっ!」

 思わず怒鳴ってしまうが、当然、誰も僕のいうことは聞いてくれない。

 こうなったら最後の手段だ。頭の中でチャイムを鳴らしているやつを引っ張り出してやる。僕は工具箱からとんかちとのみを取り出す。頭という扉を無理やりこじ開けることで、チャイムを鳴らすうるさい客人を、現実世界に引っ張り出してやろうという算段だ。

「せーのっ、それっ!」

ざくりという音とともに、のみが肉に食い込む感触。チャイムは止まったけども、意識も止まっちゃったな。

 僕はうなだれながら、取りあえず近所の人が助けに来てくれるのを待つことにした。けど、居留守のうわさが立ってしまったせいか、誰も寄り付かず、僕は大人しく一人で死ぬしかなかった。


作品名:火曜日の幻想譚 Ⅴ 作家名:六色塔