火曜日の幻想譚 Ⅴ
550.お手玉譚
3年生の思い出について
3年3組 宮田 千尋
私が、3年生で一番思い出に残っているのは、みさきちゃんのお話です。そのお話をしたときのことを書きます。
その日は、学校で昔の遊びをするという、ちょっと変わった授業がありました。そこで、お手玉を持ってくるようにと先生に言われ、女子はみなお手玉を持ってきたのです。みんなの持ってきたお手玉のほとんどは、買ってきたものやお母さんに作ってもらったものでした。でも、その中でみさきちゃんのお手玉だけはそうではありませんでした。
みさきちゃんのお手玉は、色は何とも形容のしがたい、しみや汚れが付いたような暗い緑色。とてもかび臭くて、お手玉を手で受けるたびにほこりがモワッと舞う始末。みんなは、少し嫌な顔をしてみさきちゃんのお手玉を手に取っていました。
「……このお手玉は、おばあちゃんの大切な思い出がつまっているの」
みんなの反応に気づいたみさきちゃんが、ぽつりと言います。先生は、みんなにみさきちゃんの話を聞きましょうといいました。
「私のおばあちゃんはね、宇宙お手玉選手権6回優勝のお手玉ニストなの」
その言葉を皮切りに始まったみさきちゃんの話は、給食を挟んで数時間に及びました。地区予選で戦い、後に最強のライバルであり親友となる二丁目のトメさん。エリートお手玉ニストでしたが、みさきちゃんのおばあちゃんには勝てず、引退して立ち食いそば屋でパートを続けながら、憎まれ口を叩きつつみさきちゃんのおばあちゃんをサポートし続ける笹峰のおばさん。お手玉世界大会でしのぎを削り続けることになる、ウクライナ出身の豪快マーマ、ザウルベック・グリゴリエフ。宇宙お手玉選手権で天の川連合軍を下し、初優勝した瞬間現れた謎の部隊、プレアデス星団隊。そのプレアデス星団隊との死闘をどうにか制したものの、彼女らはお手玉宇宙皇帝親衛隊の一分隊に過ぎなかったという驚くべき事実。
こんな手に汗握る話が6回も続くのです。つまらないわけがありません。
みさきちゃんのおばあちゃんの冒険話は、お手玉に興味がなかった男子も興奮するほどで、先生も寝食を忘れて話に夢中になっていたくらい面白かったです。
みさきちゃんのおばあちゃんは、95歳でまだまだ元気だそうです。いつまでも長生きしてほしいと思います。
おわり。