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火曜日の幻想譚 Ⅴ

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557.虚飾



 本棚、プレイリスト、クローゼットの中身。これらって、ちょっと似ている気がしないだろうか。

 自分の好きなものを並べるという点。並べられた項目そのものよりも、それを並べた人間のセンスが見られているという点。そして、基本的には人に見せるものじゃないという点。

 実際、本棚とクローゼットは、友人の家に遊びに行きでもしない限り見るのは難しい。プレイリストも、よほど相手に興味があるか、ミュージシャンに興味があるとかでもない限り着目することはあまりない気がする。何が言いたいかというと、これらを見せる機会って、数少ない「見せて」と言われるの待ちか、自分からグイグイ見せていくかの二択しかないのだ。

 もちろん、見せびらかすなとか、自己顕示欲がどうだとか言いたいのではない。むしろ、誰でも手軽に情報発信できる時代なんだから、積極的に自分の個性を開示していったらいいと思う。けれど、ここに一つだけ問題が生じてきやしないだろうか。見せなくてもいいものを見せるが故に、そこに虚飾というものが入ってしまう可能性だ。

 例えば、これはあんまり好きじゃないけど、世間では受けてるから入れとこうとか、これ、大好きだけど、好きなのがばれると恥ずかしいからやめとこうとか。
 そういうのを抜きにして、本当に混じりっけなしの自分をさらけ出せる人はいるのだろうか。私自身が薄汚い人間のせいだろうか、ついつい疑いの目で見てしまうのだ。

 いや、虚飾が混じらない人が多数ならそれでいい。でも、自分はきっとそれはできない気がする。みっともない虚栄を張ってしまうだろう。良く見られるためという意識が込められたもの、そんな、メッキのようなうそを本音にべたべた貼りつけて、堂々と見せびらかしている自分が目に見えてしまうのだ。

 いやはや、器が小さいと生き方そのものもみみっちくなるようだ。私は、とても他人様には見せられない本棚とクローゼットに目をやりながら聴いていた音楽プレイヤーを止め、ため息を一つつくしかなかった。


作品名:火曜日の幻想譚 Ⅴ 作家名:六色塔