小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」

火曜日の幻想譚 Ⅴ

INDEX|42ページ/120ページ|

次のページ前のページ
 

559.離ればなれ



 あの時の僕は、仕事で少々おかしくなっていたんだと思う。

 連日のように続く残業、土日も祝日も普段と同じ時間に会社に行き、帰ってくる。昼休みも夕食をとる時間もデスクに向かいっぱなし。そんな一息つく暇もない日々に心を押しつぶされ、君のことがおろそかになっていたのだろう。今、振り返ってみればそう思う。

 もちろん、君を蔑ろにしたくてしたわけじゃない。一段落がついたら、二人で温泉でも行こうと思っていたし、出世をすれば、君が希望していた専業主婦にしてあげられる、そういう思いが、僕の胸のうちにはしっかりと存在していた。だからこそ、あの忙しい日々も耐えることができたのだと思う。

 でも、そうやって仕事にかかずらっている間、君の心は次第に離れていった。僕たちの間に会話はなくなり、一緒に眠ることも、食事をとることもいつの間にかなくなった。

 そして、仕事を完了させた当日。僕らはバラバラに引き裂かれてしまった。

 僕は何もかも失い、何もできなくなる。どうにか自分の周囲をかき寄せて、僕自身を少しずつ取り戻していく。僕が形になるには、20数年の時間を要したよ。それでもまだ、当時の完全な僕には程遠いけど。

 自分のことがどうにかなったら、次に思ったのは君のことだった。今度は君のことを取り戻さなきゃ。僕は不格好な姿で、君の欠片をかき集める。目、耳、口、鼻、手、足……。側はそろえど、肝心のものは取り戻せそうにない。

 君の心はどこだろう。不完全な僕はゾンビのようにさまよい歩く。

 けど、見つからない。


作品名:火曜日の幻想譚 Ⅴ 作家名:六色塔