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火曜日の幻想譚 Ⅴ

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562.クジャクの羽根



 クジャクといえば、目玉のような派手な飾りで有名な鳥だ。

 あの羽根はメスに求愛するために、あんなに鮮やかになっていると聞いた。しかし肝心のメスは、あまり気にしていないらしい。
 だが最近、あのド派手な模様の別の用途が浮上してきている。

 ある日、1人の男が動物園を訪れた。
 その男はあまり裕福とは言えなかった。いや、むしろ困窮していた。彼はそのつましい生活に疲れ果て、自らの命を絶とうと思い立ち、最期の思い出にと、大好きな動物園を訪れたのだった。
 動物を見ていると心が洗われる。そこには現実のような、憂いも悲しみも存在しない。男は例え飼い慣らされる生活だとしても、ここで生活を送るほうがまだ現実よりはましだという、少々情けない感想を抱きながら園内を見て回っていた。
 そうこうしているうちに、男はクジャクのオリにたどり着く。男が孔雀のオリを目に入れたとき、ちょうどオリの中にいるオスが、その美しい羽根を悠々と広げるところだった。男の視界に、その美しい羽根が間近で広げられる。

「!!」

 目玉のような模様を目にした瞬間、男は周囲の時間が止まったような気がした。そして目玉の中に奇妙な光景が目まぐるしく映りだしたのだ。

 そこには、とある事業を始めている男自身の姿があった。慣れない手付きで細かい作業をしている様子が手に取るように分かる。しかし目玉の中の男は着実に仕事を完遂し、そして大金持ちになった。光景はそこで途切れ、終わった。

 死のうと思っていた男は、その映像が気になって死ぬことを忘れてしまっていた。すると数日のうちに、知人から事業を始めないかと持ちかけられたのである。
 当たって砕けろという気持ちで始めた事業は、あれよあれよという間に成功した。こうして男は、一躍金持ちになり、その成功のひけつとして、「クジャクの模様に未来の図が描かれていて、そのとおりにしたから」という少々へんてこな持論を展開し始めたのである。

 だが、この論が有名になるにつれて全国の動物園のクジャクのオリは連日満員になった。東南アジアなど野生のクジャクがいる地域では、密猟が盛んに行われるようになったという。

 さらにこの説に引きずられ、従来の説も少々変わらざるを得なくなってきている。

 先述の求愛のために用いられているという説も、派手さで目を引いているのではなく、未来を見せることで気を引いているのではないか、という説に現在は変貌しつつある。メスも模様など気にしていないというより、自分の未来を見るのに必死なのではないか、という説に代わりつつあるようだ。


作品名:火曜日の幻想譚 Ⅴ 作家名:六色塔