火曜日の幻想譚 Ⅴ
564.孤独
私たちは、2人で暮らすことにした。
2LDKの部屋を借り、1部屋ずつ自分のすみかにする。食事、掃除は当番制、余裕があればたまに手伝う程度。
会話はほとんどといっていいほどない。あいさつすらしないときもある。相手が私の部屋に来ることも、私が相手の部屋に行くこともない。
相手が何をしているのかすら知らない。ただ、折半した家賃はきちんきちんと毎月振り込まれている。
お互い友人なんていない。だから、客など誰も来ない。セールスは無視。たまに来る宅配を、覚えのあるどちらかが受け取るだけ。
そんな生活。
今、私たちはリビングで2人、テレビを見ている。内容はバラエティだが、私たちが笑うことはない。何も飲まず、お菓子を食べることもせず、ただ、息が詰まらないようにテレビの画面を見ているだけ。
本当に見ているだけ?
いや、見ているだけじゃない、逆だ。「何か」を見ようとしていないだけ。こうやって、ただただ「何か」から目を逸らして、過ぎ行く日々を生きている。
私たちは、どちらも大切な人を失った。私の妻は、闘病の末に若くして倒れ、亡くなった。妻以外の女性など考えられなかった私は、以降の人生を誰かと連れ添うだなんて考えられなかった。
相手の詳細は聞いていない。私の妻より凄絶な物語があったのかもしれないし、そうではないかもしれない。だがとにかく、ここには孤独をまとった男女が2人、生きるという行為をただ、続けている。
孤独を知った者。それは、もうあのころには戻れない生物なのかもしれない。
話をしたいわけじゃない。仲良くなりたいわけじゃない。上辺だけの理解なんて絶対にいらない。
だが、そんな思いに一瞬、ちくりと希望が針を刺す。そこから漏れ入る眩しすぎる光に、時折目を細めながらも、面白くもないテレビを眺めていることしかできない。
これまでも、きっとこれからも、私たちは同じ家で孤独というまゆに包まれ続ける。きっと、そのように生きていくことしかできないんだろう。