火曜日の幻想譚 Ⅴ
568.適職
相撲取りになってはや数年。一向に芽が出ない。
体形も痩せっぽちのままだし、技も全然頭に入ってこない。稽古でも親方に叱られてばかりだ。
結局、廃業することになり、とある飲食店に就職した。だけどそこでもあまり芳しくない。
褒められたのは、大量発生したナメクジを退治するときと、いやなお客に出ていってもらったあと。あと、知人の葬式にお店の代表で行ったとき。これぐらいだった。
思えば、相撲取りになったのも、塩をまくことが好きだからだったっけ。ナメクジといい、いやな客といい、お葬式といい、自分は塩をまくことだけは誰にも負けないほど得意のようだ。
あーあ、塩をまくだけで、一生食べていけないものかなあ。まく量、手の角度、飛距離。全てにおいてバランスよくやってのける自信があるんだけどなあ。
そんなことを考えながら、今日も店長に怒られる日々を送っている。