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火曜日の幻想譚 Ⅴ

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576. 笠子池



 近所に笠子池と呼ばれている小さい池があるんだ。

 うちの田舎で有名な山のふもとにある、池というより、水たまりに近いようなものでね。直径は5m程度だったと思ったな。でも、結構深さはあるみたいなのと、これから話すうわさがあるのとで、危ないから絶対に近づくなって言われていた場所なんだ。

そのうわさってのがね、この笠子池の由来にもなってるんだけど、深夜、傘を差した子どもがこの辺をうろついていて、差している傘で刺してくるっていうんだ。いや、しゃれじゃなくて本当にそういう言い伝えが、なんと明治の昔からあるんだよ。

 どうせ言い伝えだろうって? いや、それがね。確かに池の近くで遺体が発見されたり、謎の失踪事件があったりするんだ。昭和の初期を皮切りに、なんと10件以上もここで人が死ぬか、いなくなるかしているんだよ。
 今じゃ、ちょっとした心霊スポットと化していてね。若い子が車などで来て、はしゃぎながらスマホをいじくって帰っていくよ。じゃあ、さぞかし地元の人は苦々しい目で見てるだろうって? 意外なことにそうでもなくてね。いっそ村おこしに利用しようじゃないかって話があるぐらいだ。

 ところで、実はこのうわさ、ちょっとだけ裏があるんだよ。

 君はさっきの池の由来を聞いてどう思った? そう。おかしい点が一つだけあるよね。笠子池という名称は明治に付いたものなのに、失踪事件や殺人事件は昭和の時代から起こり始めているんだ。すなわち、明治、大正時代は傘を差した子どもを見ることはあっても、血なまぐさい事件は起こっていなかったことになる。これは一体どういうことだろうか?

 実は、答えらしきものはもうつかんでいるんだ。結論を言うと、明治の頃にはこんなちっぽけな池に名前なんかなかったんだ。普通に池とだけ呼ばれていて、特に笠子池なんて呼ばれていなかった。じゃあ、なんで池に名前を付けて物騒なうわさを流すやつが昭和になっていきなり出てきたのだろうか。それは、近隣の人に近付いてほしくないからだ。じゃあ、なんで近付いてほしくないのか。多分、人を寄せ付けないことで新しい犯罪をしてしまうのを止めたいというふうに考えたんじゃないだろうか。

 この池の名前は、どうやらうちの村の大地主が名付け親らしい。そして、あまり大きな声では言えないが、その大地主の家には座敷ろうがあったようで、昔はちょくちょくその座敷ろうの主が逃げ出したらしいんだ。ちなみに少し前にその座敷ろうの主は亡くなったらしい。どうやら大地主のお兄さんで、相当な高齢だったそうだよ。

 もう故人だし、推測でしかないから皆までは言わないが、僕は心霊スポットとして売り出すのは賛成だよ。多分、もうあそこで失踪や殺人事件などは起きないだろうからね。


作品名:火曜日の幻想譚 Ⅴ 作家名:六色塔