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火曜日の幻想譚 Ⅴ

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586.腐る目



 イタリアに存在するとされる、ある礼拝堂には少々奇妙な遺体が安置されているという。

 その遺体はかつて12歳の少女だったもので、現在もしっかりと防腐処理が施されているため、ほぼほぼ、その美しさを保ったまま現在に至っている。
 では、彼女の遺体のどこが変わっているのか。その理由は、彼女の眼球にある。先にも述べたように、彼女は防腐処理を施されているが、なぜか、その眼球だけが次第に腐り落ちている最中なのだ。
 もちろん、眼球も丁寧に防腐処理が行われてはいたようだ。それが証拠に、つい最近まではその瞳も美しいままだった。しかし、ここ最近、急激に彼女の目は光を失ってきているのである。

 この現象について、各国の学者がいろいろな説明を試みている。眼球だけ防腐処理が甘かったという説、眼球の処理が特別難しかったので今になってほころびが出始めたという説、反対に最近行った防腐の処理の際に失敗をした説……。
 学者たちがさまざまな説を唱える中で、世間ではこのようにうわさが立ち上っている。

 彼女は、今の世の中を見たくないのだと。

 彼女が生きていた当時と現在。どちらがまだ見るに値するか、それは一概には言えないことだろう。だが、少なくとも彼女にとっては、現在は当時よりも目にしたくない時代なのかもしれない。

 彼女はその曇ったまなざしでいつまで世の中を見続けるのだろうか。そして、いつ、その視界を閉じてしまうのだろうか。それは彼女にしか分からない。


作品名:火曜日の幻想譚 Ⅴ 作家名:六色塔