火曜日の幻想譚 Ⅴ
484.彫像の視線
僕のすむ都市には、結構な広さのちょっとこじゃれた公園がある。
彼女も子どももいない僕は、正直、あんまりこの公園に行く用事がないのだけど、最近あまり体も動かしていないし、暇だったので、運動がてらちょっと行ってみることにした。
20分ほどでたどり着き、広い敷地をぐるりと一周してみてちょっと驚く。大小の彫像が10体ほど点在していて、奇妙な顔で奇妙なポーズを取っているのだ。しかも、そのどれもが、こちらを見ているような気がする。
こりゃあ、深夜にこの公園を通り抜けるとなると、相当不気味だぞ、そんなことを思った瞬間、体が冷えたのだろうか、急に尿意を催してくる。僕は早速近くのトイレに入り、小便器で用を足そうとした、そのときだった。
換気用に開けられている窓。そこから彫像の一つとばっちり目が合う。
「…………」
なんだろう。相手は彫像なのに、下半身は隠れているはずなのに、どことなくあざ笑われている感じ。思わず、視線を別のほうに向ける。
入り口を間に挟んで、僕と別の彫像とが一直線に重なる。そして、その彫像の視点も、僕をしっかりと見ているような気がする。
「…………」
2体だけじゃない。天窓から大きいそれものぞいているし、はるかかなたにいる小さいのも、恐らくこちらをじっと見ている。よく見えないがそうに違いない。
その事実に気付き、思わず体をギョクンと震わせた僕は、止まりかけた尿を無理やり絞り出し、逃げるように公園を後にした。
それ以来、公園には行っていない。恐らく行くこともないだろう。