火曜日の幻想譚 Ⅴ
487.土の下の物語
……うーん。何だよ、ただでさえ古傷が痛むのに。土、ガンガン掘り返し始めちゃってさ。響いて響いて仕方がねえよ。っていうか、今、何年だ。ああ、もうそんなになるんだな。
俺が脇腹をぶっ刺されて、死体にされて、ここに乱暴に埋められてから、もうそんなになるのかあ。今、振り返ってみると、長かったような短かったような、何とも言えない気分だなあ。でも、この気が遠くなるような長い年月、全くと言っていいほど何にも起きなかった。ただただこの場に埋まって、刺された脇腹の痛みにのたうち回っていただけだったなあ。
ああ、でも、最初の頃は小さい子たちがやって来て、ボールで遊んでたっけ。あれ、多分俺を殺したやつの娘さんと、その友達だったんだろうな。あん時は、もちっと安らかに眠らせてくれよと思って腹が立ったが、何もなさすぎた期間を思うと、あれはあれで楽しかったな。今頃あの娘さん、どうしているだろうなあ。
いや、話はそこじゃない。なんで今になって、こんなところを掘り返してんだ。家を取り壊して、道路の幅を拡張しようとでもいうのかな。そうなるとこりゃもう、本格的に俺は見つかっちまうだろうなあ。
ということは、ようやく俺も墓とかいうやつにしっかりと収まって、ゆっくりと眠れるというわけか。それに、俺があいつに殺されたってこともきっと明るみに出るだろうなあ。
……! お、ようやく見つけやがった。さあて、人骨が出てきたんだ。みんなさぞかしびっくりするだろうなあ。
……ん、意外に落ち着いてるな。予想通りって顔してるぞ。あれ、あいつの顔。随分と老けてやつれてるけど、忘れもしない。俺を殺したやつじゃねえか。隣りにいるのはあのときの娘か、随分きれいになったなあ。
そうか、見つかりはしなかったけど、罪の意識に耐えられなかったってことかあ。おまえもつらかったんだなあ。同情する気は毛頭ないが、心中はお察しするよ。
ふう。これで俺もおまえも、安らかに眠れるってことだあなあ……。