火曜日の幻想譚 Ⅴ
488.正装
カレーを作って数日後のこと。
残ったルーをめんつゆや水などで調整し、カレーうどんを作った。テーブルの上に置かれたそれはもうもうと湯気を立て、今にも食べてくださいとばかりにおいしそうな匂いを放っている。
私はそれに手をつける前に、いそいそと部屋着の上を脱いで、カレーうどん用のTシャツを着こなした。そのTシャツは最初こそ真っ白の無地だったが、私がカレーうどんを食べるたびに着ているので、今では黄色の水玉模様になっていた。
「よーし。いただきまーす」
準備を終え、早速、箸を取ってうどんを持ち上げる。ピチャっと汁が跳ね、着ているシャツはさらに黄色い部分を増した。
「ズルズルッ、ズルッ」
うどんを勢いよくすすり込む。胸元あたりに汁が飛び散る感覚。今回はどこまで黄色くなるだろうか。カレーうどんもおいしいが、食べた後のTシャツも楽しみだ。
本当は外でカレーうどんを食べるときにも、このシャツを着たい。だが、洗濯ができないので、さすがに周囲に迷惑がかかるだろう。いわばこれは、家でカレーうどんを食べるときだけの正装だ。
あんまり人に言えた趣味ではないけれど、黄色いしみがどんどん増えていくのが楽しくて仕方がない。もはやこれだけのために、家でカレーうどんを食べているまである。
今日もカレーうどんを平らげ、満足そうにシャツのしみに目をやった私は、食後のお茶をいれるついでに器を流しに置きにいった。