火曜日の幻想譚 Ⅴ
489.プリンターと予感
家のプリンターが壊れてしまった。
わけがあって長期間、仕事をしていなかったのだが、良さそうな求人を見つけたのだ。早速、履歴書や職務経歴書を作りたいのに。僕の焦燥をよそに、プリンターは印字を一つもせずグッチャグチャになった紙をはき出し続けている。長年、一緒に頑張ってきた仲なのに、どうしてこんなときに限って……。
仕方ない。買ったお店に持ち込み、見てもらうことにする。
「あー、ローラーが完全に駄目になってますね。買い替えたほうがお得ですよ」
言われるがままにお金を払い、新しいものを購入する。そいつは前のものよりもはるかに速く、とても美しい書類を印刷してくれた。それはいいことなのだが、どうしても心のなかに暗雲が立ち込めてしまう。
社会から外れ、仕事をしてなかった自分と、先ほど引き取ってもらったプリンターをついつい重ねてしまうのだ。どうにも感情移入ができない新入りのプリンター(できるやつ)を横目に、書類を封筒に入れる。
どうしたもんだろうか。ただでさえ、空白期間があるので不利な戦いが予想されるのに。こんな気持ちでは、仮に面接までこぎつけたとしても、質問攻めにあって返答に窮するのが関の山だ。でも、送らなければ可能性は0。予感は予感でしかない、そう言い聞かせるも、されど予感。
どうにもぐらついた心で、書類を郵送しに外に出る。重い足取りでポストへと急ぎながら、僕は嫌な予感で暗い気持ちになっているのか、嫌な予感ごときで暗い気持ちになっている自分にがっかりしているのか、すっかり分からなくなってしまっていた。