小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」

火曜日の幻想譚 Ⅴ

INDEX|110ページ/120ページ|

次のページ前のページ
 

491.遮蔽物



 エアコンから来る風がやけに生ぬるい。

 引っ越して数カ月。ずっと陽気が良くて使わなかったので気付かなかった。しかし、これから暑くなってくるのに、こんな風しか出せないエアコンでは、ちょっとしのげそうにない。

 仕方がないので会社に休暇の連絡をして、昼間、電器屋さんを呼ぶことにした。だが、驚くことに何の異常もないそうだ。そんなことはないと言ってみたが、実際にスイッチを入れると冷たい風がやってくる。何も言い返せない僕からお金を受け取り、電器屋さんはさっさと帰ってしまった。

 その夜。お金がかかったとはいえ、直ったのならいいやと思い、エアコンをつける。するとやっぱり、温かい風が吹き付けてくる。どういうことだ。そう何度も電器屋さんを呼べないので、次第に暑さが増す陽気の中、様子を見てみることにした。

 一週間して、以下のことが分かった。どうも昼間は冷たい風が送られてくるようだが、夜、遅くなると冷たさが失われるようだ。その時間もほぼ一定していて、必ず深夜0時頃。仕事から帰ってくるのが遅い僕がちょうどエアコンを使い出す辺りから、風の温度が変わっているようなのだ。

 そこで、今度は僕なりにその理由を推理する。多分、室外機のファンの前を何かがふさいでるんじゃないだろうか。あそこをふさがれると、エアコンはうまく動作しなくなると聞いた。おおかた、野良猫か、深夜、家にいられない近所のお父さんがタバコを吸いに室外機の前に来るんだろう。それを見つけて追っ払えば涼しくなる、そうに違いない。

 その日の深夜。僕は眠い目をこすりつつ、エアコンの風の変わり目を待っていた。そして0時過ぎ、ついにその瞬間がやってくる。僕は電気もつけずにそろりと靴を履いて玄関から抜け出し、暗闇の中、家の裏手に回った。

 一見、そこには何もないように見えた。そんなはずはない、そう思い目を凝らすと、室外機の前にぼんやりとなにかが浮かんでいる。赤まみれのそれの上部に目をやると、どくどくと流れ出る血の奥から、こちらを見つめる空虚な目。
 僕は恐ろしさに震え上がり、家に飛び込んで厳重に鍵をかけ、夜明けまで布団の中で震える羽目になった。

 その後、近所のオカルト好きな知人に話を聞いた所、ここは戦国時代に、とある将とその配下が自決をした場所だそうで、時折、武将の霊らしきものが出るとのことだった。

 それだけ昔じゃ、告知義務もあるわけがないし、むしろあちらのほうが先住だ。僕はあきらめてこのエアコンで夏を過ごすことに決めた。理由が理由だけに、風が前よりも冷たく感じられるようになったことだしね。


作品名:火曜日の幻想譚 Ⅴ 作家名:六色塔