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火曜日の幻想譚 Ⅴ

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493.ミス



 人間とは、ミスをする生きものだ。

 仕事、家事、運転、会話、ゲーム、人は人生の営みの中で、数限りなく間違える。ささいなものもあれば、取り返しのつかないものだってあるだろう。これは恐らく人間にとって、普遍の真理であるはずだ。偉い人も重要な経営判断を誤ることがあるだろうし、的確にものごとを進めるあの人だって、何かしらミスをしたことぐらいはあるだろう。

 ということは、普段、たくさんの人々に囲まれている私たちの周りには、ミスが山ほど存在しているはず。
 そういった世界の中で、なぜかよくミスが見つけられている人がいる。その人は他の人に比べてとりわけミスが多いわけではないだろう。でもなぜか、ミスをよく見つけられてしまう人なのだ。

 どうしてこんな人が発生するのだろうか。ミスの量は先述の通り、それほど多くはない。でも、間が悪いのか、たまたまミスが見つかり、それを偉い人などが見ていて怒られる。こんなことが頻繁に起こるのだ。

 思うのだが、ミスには2種類あるのではないか。人には簡単に見つからないミスと、人が容易に見つけてしまうミスが。そして、恐らくだが、前者のような人に見つからないミスをするような人が、出世をしていくのではないだろうか。そういう人間のミスは、お客さんも部下もなかなか気付かない。だからこそ受けもいいし、どんどん出世もしていく。
 一方で、見つかるミスをするタイプの人は、なかなかうだつが上がらない。憎めないやつとして愛される可能性もあるが、大体は煙たがられてしまうものなかもしれない。

 結局、人の立ち位置は、こんなささいなことで、案外、決まってしまう気がする。

 こんなことを考えている私は、ご想像の通り、人に見つかるタイプのミスばかりやっているほうの人種だ。いろいろな人に怒られ、下げたくもない頭を下げ、反論という名の言い訳をぐっと腹に抑え込んできた。
 しかし、それらも、要は人に見つかるタイプのミスだっただけ、そういうふうに考えたら、それほど腹も立たなくなった。


 だが待てよ……。もう一つ、可能性がある。そうだ。ミスは2種類じゃない。さらにもう1種類ある。人に見つからないミスと、すぐ人に見つかるミスと、特定の人をつるし上げるために見つけ出される、第3のミスというものが。

 要するに、他人を陥れるため、そのためにわざわざ見つけ出されるミスというものがあるのだ。それは本来、見つからないミスに属するものだろう。それを殊更に騒ぎ立て、特定の人を、注意や説教、ことによっては退職にまで追い込みたいがために掘り起こされるミスなのではないだろうか。

 このことを念頭に、私は自分が会社を辞めさせられることになった時の状況を思い出す。あのミス、このミス、そのミス。どのミスも心当たりばかりだ。

 結局、ミスのタイプとかそれ以前に、人として嫌われていたんだな。一番考えたくない真理にたどり着いた私は、カレンダーを見て今日が給付日であったことを思い出し、複雑な気分でハロワに行く準備を始めた。


作品名:火曜日の幻想譚 Ⅴ 作家名:六色塔