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火曜日の幻想譚 Ⅴ

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494.調理石



 妻の家には、代々、奇妙な石が伝わっている。

 一見すると何の変哲もない、丸っこいピンポン玉程度の大きさの石。しかし、焼いたり、煮たり、たいたり、湯がいたり。いわゆる料理のときに食材に混ぜると、ちょうどいいタイミングで色が黄色く変わるという不思議な石だ。

 実際にフライパンでハンバーグを焼くときに見せてもらったが、ハンバーグの隣に転がっている石が、ある瞬間を境に、急に黄色に変わった。それを見た途端、妻は火を止める。

 食べてみると、なるほどおいしい。上手に中まで火が通っていて、それでいて焼き過ぎではない。他にもみそ汁や、煮物をこしらえるときなどにも使っていて、この石のおかげで、妻は近所でも料理が上手な奥さんで通っているそうだ。

 もちろん、妻のことを料理をするだけの機械だなんて思ってないし、仮に石がなくたって一緒になっていたと思う。だが、この石のおかげでわが家が、長年、平和を維持してきたことは揺るぎない事実だろうと思う。

 だが、そんなわが家に、ちょっと困ったことが起きている。

 うちの一人娘の結婚が、つい先日、決まったのだ。妻と同じように石に頼り切りの娘は、もう既に嫁ぎ先に石を持っていく気まんまんなのだ。

 正直、私も料理はそれほど得意とは言えないし、石に頼り切っていた妻がどこまでできるかも怪しい。そうなると、この家の食生活ががたがたになる可能性が高い。まあ、これから妻と一緒に料理教室に通うのもいいかもしれないが。
 うちはまあ、長年石に頼ってきた報いと思えば、最悪、それでもいい。いいけれど、よく考えたら娘の旦那、義理の息子ははたしてどう思うだろうか。

 娘は送り返すから、石だけくれとかいい出したらどうしようか。こないだわが家にあいさつに来たときは、そこまで人でなしな男ではないように見えたが、今からちょっと心配で仕方がない。


作品名:火曜日の幻想譚 Ⅴ 作家名:六色塔