火曜日の幻想譚 Ⅴ
495.ブタとネコ
昔々、とあるところに無人島がありました。
その無人島には、たくさんのブタが生息していました。その数の多さときたら、島を埋め尽くすほどです。しかしその数の多さにも関わらず、みんな仲良く暮らしていました。
ある日、この島に一そうの船がたどり着きます。おそらく難破をしたのでしょう、乗組員はみんな、疲れ切っていました。さらにその船には、ネズミを捕る目的でしょうか、一匹のネコもいました。そのネコも乗組員と同様、おなかがペコペコで限界のようです。フラフラと苦しそうに砂浜を歩くネコを見て、ブタたちは絶対に近寄るのはやめようと誓い合いました。
船が着いてから、数日がたちました。数人の乗組員は、畑を耕したり、海に潜って魚介を獲っています。みんな、ブタには見向きもしないようです。一方のネコはというと、ブタを相手に芸を見せるようになりました。かわいい声で鳴いてみたり、かわいくしっぽを振ってみたり、かわいく前脚をなめてみたり……、そのかわいさといったら、もうたまったものではありません。しかし、そんなかわいい表情をしながらネコは言うのです。
「おなかがすいたニャー」
ブタたちは、危ないので食べ物は与えないようにしていました。しかし、ネコはかわいいポーズをどんどん繰り出してきます。ブタの心にも、タダでこんなかわいいものを見続けていいのだろうか、という罪悪感のようなものが忍び寄ってきます。
しかし、我慢ができなくなったブタが現れるまで、そう時間はかかりませんでした。ネコの前には食べ物が置かれ、ネコはむしゃむしゃと満足そうに食べ物を頬張ります。
食べ物のおかげで栄養が行き渡ったネコは、ますますかわいいポーズで、食物をねだるようになりました。そろそろやめるべきだという声も出ましたが、やはりかわいさには敵いません。ネコはさらに大量の食べ物をもらい、さらに毛並みをツヤツヤにして食べ物をねだってくるのです。
この頃になると、ブタの間に「ネコFC」というものが発足します。会員カードが作られ、番号が若いほど古参として発言力が増しますし、FC限定のイベントというのも開催されるのです。そしてネコのいる場所には常にFC会員が見張りにたち、ライブが行われる際は、色とりどりのサイリウムがネコとともに踊ります。さらに過激なものは、「ネコに食べられてもいい」、「死ぬまでネコ推し」、「ネコしか勝たん」、そんなことまで言い出すものも出る始末です。
そんなネコを崇める生活が続いていたある日、救助のヘリがやってきました。ネコはひょいと乗組員の一人に抱きつき、ヘリに乗り込みます。しかも、ブタからもらった食べ物を持てるだけ持って。そして次の瞬間、ヘリはあっという間に飛び去ってしまいました。
困ったのはブタたちです。応援するネコがいなくなってしまった上に、ネコにあげすぎて自分たちの食べ物がほとんどないのです。
そんな何もかもが消え失せた島を、ブタはぼうぜんと眺めるしかありませんでした。