火曜日の幻想譚 Ⅴ
499.理解の及ばぬ思い
あの日、僕らは愛を知った。
お互いを見初めた僕らだったけど、周囲はそれを許さなかった。古臭いしきたりや、つまらない因縁。全くもってくだらないそんなもののために、僕らは一つになれなかった。
僕らは、唯一、知っている方法で、それにあらがうことにした。二人で手を取り合って、どこまでも遠くへ逃げること。僕らが自由を得るには、もはや、それしかなかったんだ。
でも、その目論見は、一瞬で崩れ去った。君は館に連れ戻され、僕はその場で刃に倒れた。僕は道端に打ち捨てられ、腐り果て、鳥についばまれ、やがて跡形もなくなった。君はその後、うわさによると、修道院で寂しく一生を終えたそうだね。
でも、それだけ。たったそれだけの、よくある、ありきたりといっていい悲劇。
でも、このありきたりな悲恋を、どこぞの変わり者がかぎつけた。そいつは僕らの物語を言葉にし、偉大な詩人として歴史に名を残したんだ。
今でもその詩は、いたるところで詠われ、僕らの永遠の別離の情景は、たくさんの人が涙している。……でもそれが、僕には耐えられない。どうにも、耐えられないんだ。
僕らは、敗北者だ。愛を勝ち取ることができず、死んでいっただけの男と女なんだ。もう、そっとしておいてほしい。僕らのことなんか、もう。
だいたい、誰が僕らの無念な気持ちを分かるというんだ。あの詩人ですら、僕らの気持ちの1%もくみとれちゃいない。.そんな輩が書いた詩で、いったい何が理解できるというんだ? 例え、ありきたりな悲恋だとしても、いったいどれだけ世の中の人間は、それを理解できるというんだ。皆が流すその涙は、その時だけの、うわべだけ。しょせん、その場限りでうそ偽りのそれでしかないんだ。
そう。どうせ僕らのことなんか、なんにも分かっちゃいないんだ。