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火曜日の幻想譚 Ⅴ

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500.あるドラッグストアの提案



 ちょっと買い物があって、近所のドラッグストアに出掛けた。

 いつものように店に入り、ふらふらと商品を見ながらに買うものを選んでいく。
「シャンプーの詰め替え、確かストックがなかったな。頭痛薬も念のため買っとこうか……」
選び終わって、レジに商品が入ったかごをどんと置く。行きつけなので、ポイントカードもちゃんと準備済みだ。レジのお姉さんはそれら商品のバーコードをリーダで読み取っていく。ここまでは普通だった。しかしその直後、お姉さんは意外なことを言い放った。

「ご一緒に、こちらの妊娠検査薬はいかがですか?」
「……へ?」
「ご一緒にこちら、妊娠検査薬、2回用を3個セット、1200円でいかがですか。99パーセント以上の精度で判定してくれますよ」
「…………」

そんなことを言われても、そもそも買う気がないのだからレジにいれなかったんだし。

「……いや、いいです」
「はい。分かりました。ではお会計、2,643円です」

どうにもふに落ちないままお金を払い、店を出る。家に着いても、言われたことが奇妙すぎて、何だかふわふわしていた。

 何でお姉さんはあんなことを言い出したのだろう。妊娠検査薬が売れていないのだろうか。いや、それにしたって、レジで販促するのはおかしい。某ハンバーガー屋さんのポテトじゃあるまいし。

 あのストアは行きつけだが、あのお姉さんは初めて見る顔だった。もしかしたら、慣れていないお姉さんが焦ってしまい、僕に妊娠検査薬を勧めてしまったのだろうか。


 ぐるぐると回る思考と過ぎ去っていく時間。そんな中で、数週間がたち、再びドラッグストアを訪れると、そこには「閉店のお知らせ」という紙が寂しそうに貼ってあった。

 その後、風のうわさで聞いたところによると、ネット通販サイトによくある「あなたへのおすすめ」を見て、店長があの方法を思いついたらしい。だが、お客さんからも店員さんからも評判が悪く、売る側も買う側も人が減ってしまい、経営が立ちいかなくなってしまったそうだ。
 まあ、そりゃそうなるよなあ。僕はそう思いながら、少し遠くのドラッグストアを行きつけにすることにした。

 というか、僕へのお勧めが妊娠検査薬のセットってどういうことだ。そんなに僕が異性にだらしがないように見えるのか。全てが終わったあとに気付いて憤ったが、もう後の祭りだった。


作品名:火曜日の幻想譚 Ⅴ 作家名:六色塔