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十五年目の真実

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「君のお母さんと私の不倫を知っていたんだ。そして知っていて、その現場をあの外人が撮影したことを知った。もし相手が日本人だったら、説得しようと思ったのだろうが、あの人は頭が固い人だったので、そこまで考えるだけの力がなかったんだ。それで強硬手段に出たというわけさ。僕と君のお母さんも、写真を撮られたことは分かっていたけど、実はお父さんに不倫がバレてしまったことも分かっていた。だから、写真に収められてもそこまで気にしなかったんだ。でも、君のお父さんはそうではなかった。世間体を気にしてなのか、自分がまわりから嘲笑されるのを嫌ったのか、相当気になったようだ。不倫していたことに関して君のお父さんが我々を責めたことはなかった。きっと、自分で殺しをしてしまったことを悔やんだからだろうね」
「でも、死体はラブホテルの近くにあったんですよ」
「あれは、僕が抱えるようにして彼を運んだんだよ。おんぶしてしまえば、相手は少年なので、怪しまれない。僕を知っている人がいても、教師だと分かっているので、生徒の誰かだと思えば、誰も不思議に思わない。それを利用して犯行現場をごまかした」
「どうしてそんなことをしたんですか?」
「どうしてだろうね? 君のお母さんが望んだんだ。夫の弱みを握ったとでも思ったのか、それとも世間体を気にしたのか分からないが、その時は僕もお母さんの意見に賛成し、死体を動かした」
「僕が死体を発見したのを、ビックリしなかったんですか?」
「いや、それも実は作戦だったんだ。君に死体を発見させれば、まさか第一発見者の関係者が犯人だなんて思わないと思ったんだ。かなりいい加減な発想だけど、確かにそうだよね。君に死体を発見させれば、ある意味、ごまかせたわけだし」
「じゃあ、僕はその前に先生と母親がホテルから出てくるのを目撃したんだけど?」
「あれも、もちろん計算ずくだよ。君に見せておくことで先入観を与える。第一発見者としていきなり死体を発見する前に一つのクッションになればいいと思ってね」
「じゃあ、僕の友達があの外人の頭に怪我をさせたというのは知っていたの?」
「怪我をしているのは分かったけど、どうして怪我をしているのかまでは分からなかった。まさか下北君が外人を怒らせていたとは思ってもみなかったよ。たぶん、あの外人は相当な被害妄想だったんだろうね。言葉も通じない日本に来ること自体間違っていたんだ。日本にさえ来なければ、死なずに済んだものを……」
 と言って、少し下を向いてしまった。
「ところで、先生はどうして自首なんかしたんですか?」
「すべてを丸く収めるためにはこれが一番いいのではないかと思ったんだ。もし、君の父親が逮捕されるようなことになるのと、自分が自首していくのでは、僕の方が、まだ被害は少ないしね。君のお父さんが捕まれば、僕たちも無事には済まないし、逆に僕はあの外人に怪我をさせたのは、君だと思っていたんだ。君をあのトイレの近くで見たような気がしたからね。まさかそれが下北君だとは思わなかったけど、それはきっと自分たちの不倫に対して申し訳ないという気持ちがあったら、下北君を君だと誤認したのかも知れない。そういう意味では君を庇う気持ちもあったんだ」
 それを聞くと、いたたまれない気分にさせられた。
「じゃあ、どうして今になってそのことを僕に?」
「あの事件を捜査していた辰巳刑事。今では警部になっているんだけど、彼が僕に言ったんだよ。十五年経ったら、君に正直に話すといいってね。何も自分一人で罪をかぶることはない。十五年経てば時効だって言ったんだよ。どうやら辰巳刑事は、僕が自首しても。納得いかずに自分なりに捜査を続けて、ある程度まで真相に辿り着いたようなんだ。だから、僕のところを訪ねてきてくれて、そういう風に言ってくれたんだよ」
 と言って先生は頭を下げた。
 なるほど、これで父が離婚に簡単に応じ、しかも慰謝料なしでよく納得できたと思っていたが、それも当然のことであった。
 先生の話を訊いていると、かなり母親は父親に対して嫌悪を感じていたようだ。息子の自分に対してもつらく当たったことを後悔していたという。離婚の際に、親権を取れなかったのは痛かったが、本当のことを言ってしまうと、先生のせっかくの行為が無になってしまう。
 せっかくの執行猶予もついて、情状酌量もされたのだから、いまさら蒸し返すこともないと思ったのだろう。それが、先生と母親の本心だったのだ。
 いまさらながらの事実を突くつけられても、今では父も母も恨んではいない。実際の犯人が父だと言われても、ビックリはしたが、前述のように、先生が犯人ではないという言葉の方が驚愕だった。
 ただ、西村にとっての後悔は、
――なぜ、あの時、納得していなかったはずなのに、すぐに真相解明を諦めてしまったのだろう?
 ということだった。
 少なくとも先生の掌の上で転がされていたという事実であったことは間違いない。そのことを無意識に分かっていたからではないだろうか。
 十五年という歳月が自分にとっていかなるものだったのか、いまさらながらに感じさせられた西村だった……。

                  (  完  )



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作品名:十五年目の真実 作家名:森本晃次