短編集113(過去作品)
尚子はそれから結婚したらしい。いい結婚だったかどうかは分からないが、少なくともその時に彼女のまわりにいる人は、平山とはイメージの違う人たちばかりだ。
今の平山は一人である。本当にあの時の尚子の気持ちが分かる一人になったのだ。
「また旅に出よう」
何を求めているのか分からない。
ひょっとして、あの時の尚子の気持ち、自分に何かを話してほしいと思ったあの時の尚子と今の自分がどこかでシンクロしているのではないかと思う平山である。
「お幸せに……」
電車の窓から山に向かって誰に言うともなく呟く平山だったが、窓に自分の姿は写っていなかった……。
( 完 )
作品名:短編集113(過去作品) 作家名:森本晃次