魔女の時間 Walpugis and our world
突如、目の前のルニアが苦しみ出した。四肢が何ものかに絡め取られたように伸び、宙に浮く。
そして、ルニアの腕が、足が、体全体が、空間に引きずり込まれ、消失していく。
「──生きながら命を絶たれるなんて壮絶だね」
ルニアはもう言葉を発することも出来ない。既に体の半分が消えていた。
「でもね。あたしはそんなの見たくない」
リシアは手を突き出し、掌を広げた。蒼い目が力強い光を帯びた。
「──世の理を統べるモノよ、我が言葉に応えよ」
そしてリシアが声を張る。
「──来い!」
その一言で、全ては終わった。
*
「侑花ー? いいよ」
何? 終わった?
「終わった。体、返すね」
あ、うん。
侑花の目の前には、おっさんが一人、横たわっていた。
「……リシア?」
はいはい?
「この人、生きてるの?」
生きてるよ、多分。
「きゅ、救急車呼んだ方がいいかな?」
そだねぇ。その方がいいかな?
「一一〇番だっけ?」
それは警察でしょう?
「一一五番だっけ?」
……それ、電報だよ。侑花はそこのおっさんを助けたいの? 死なせたいの?
その後、侑花はなんとか一一九番に連絡を入れ、その場を後にした。
あーあ。
「何? どしたの?」
いや、昔の馴染みだったんだけどね。
「あのおじさんが?」
いや……中の魔女が。
「ああ。そう言えば、どうなったの?」
ん? ああ、帰ったよ。
「帰った?」
そ。『還った』の。
*
その後。
侑花はこの件について何度か話題にしたが、リシアがそれに応じることはなかった。
作品名:魔女の時間 Walpugis and our world 作家名:なぎのき