Fray
山田は、自分を取り押さえている男の正体を悟ったように、口角を上げた。楠木は話せるだけの余裕を与えるために、かけていた体重を少しだけ解放した。山田は言った。
「あんたは、保険だったんだな。もしおれが来なくても、あんたが殺してくれる」
楠木は一旦うなずいたが、実際のところ何も証明されていないということに気づいて、首を傾げた。
「おそらくそうだろうけど、本当のところは知らない。死のうとしてる奴の気持ちは、おれには分からない」
山田が同意を示そうとしたとき、楠木は、冗談を思いついて頭の中で先にオチを披露してしまったように、目を大きく開いて笑い出した。
「そんなことが分かったら、そもそも人なんて殺せないしな」