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荏田みつぎ
荏田みつぎ
novelistID. 48090
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天界での展開(4)

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「I have no idea.」
「簡単な言葉とはいえど応えたな。権蔵、私とお前の短い会話を中国語で言うと?」
「そんな事、分らない。」
「分からない? では、タガログ語では?」
「分からない。だが、その中国語とかタガログ語って、一体何だい?」
「何だ とは、何だ? 中国語とは、人間界の中国人が話す言葉であり、またタガログ語とは、フィリピンの公用語です。」
「公用語って、何だ?」
「公用語とは、その国で用いることが正式に決められた言葉です。」
「誰が、決めたんだ?」
「それぞれの国の政治を司る者が決めたと思われます。」
「そうなのか。それで、俺は、気付かないうちに他所の国の公用語を話していたというのか? 何故だ? 何故、俺が、行った事もない国の言葉を話していたんだ?」
「それを、私が訊いておるのです。」
「訊かれてもなぁ・・」
「どうも、お前と話しておると私まで妙な感覚に襲われる様な気がします。しかし、ここは気を取り直して、一般的な場合、その国の言葉を覚えようと決心して学び始めるのですが・・」
「俺は、決心もしなかったし、学んだ覚えもない。」
「では、何故、他国の言葉が話せるのですか?」
「訊かれてもなぁ・・ そうだ! あんた、賢いんだろ? 俺の代わりに考えてくれないか?」
「その様な事、考えても分かる筈がないでしょう!」
「何をそんなに怒ってるんだ。賢いあんたでも分からないのに、無学の俺に分かる訳などないだろう。」
「まあ、そう言われてみれば、そうかも知れない・・ などと、何故、私がお前の言葉に頷かねばならないのか・・」
「まあ、この問題は、後回しだ。いくら話しても埒が明かないぞ。」
「埒が明かなくとも、私としては、何らかの答えを導かねばならないのです。・・では、お前は忘れているが、生前、他国語を学んだ経験が有るという事にすればどうでしょう。」
「それでは、捏造になるじゃないか。」
「捏造だなどと・・、お前は学んだ事を忘れているが・・とするだけですから。」
「それを捏造というんだぞ。さっき少しだけ現れて、すぐに何処かへ行っちまった和尚がそう言ってたぞ。あんた、これまでだって、分らない事を適当に記録してたんじゃないのか? どうも、その適当に言い包めるやり方が手慣れた感じだけど・・」
「な、何という恐れ多い事を! この天界人体研究所の所長に限って、これまで捏造など只の一度として致した事などありません!」
「嘘は、いけないね。目が泳いでるぞ。おい!正直に白状しろよ。これまで何度捏造したんだ?」
「・・・」
「都合が悪くなると、黙りかい? ・・秘書さん、こんないかがわしい研究所になど長居は無用だ。こう見えても、俺は結構忙しいんだ。思い出したんだけど、サルを然る処で待たせたままだから、これからちょいと行って来る。その間、俺を切り刻んですべて検証し尽くしたという事にしてだな、俺が人類で最初のバカだとか何とか書類をでっち上げろよ。賢いあんた達なら、それくらい朝飯前だろ? って事で、俺は、出掛けるから。じゃあな・・」
「あっ、待て! ・・・と言ってる間に・・もう消えてしまった・・・」


 千手の 話で


「思った通りですね。やはり、逃げ出しましたか。」
「あ、千手観音様。いやはや・・もう私どもの手に負えません。あの死人、権田権蔵は、自分が死人であるという自覚があるので御座いましょうか。それに、天をも恐れぬあの口のきき方は、未だ嘗て見た事が御座いません。無礼と言わざるを得ません。彼を検証するどころか、短い時間でしたが、あの傍若無人ともいえる言動に只々あっけにとられ、二の句が継げぬ間に勝手に消えてしまいました。」
「はっはっは・・」
「千手観音様、笑って居る場合ではありません・・ これでは、御用繁多の中で何の為に貴重な時間を割いたのか分かりません。」
「これは、失礼・・ しかし、所長よ、あなたを信じて話すのですが、実は、人間界での権蔵の寿命は、本来であれば、あと56年も残っていたのです。」
「えっ、56年も・・で御座いますか・・・? また、どうしてその様なミスを・・・先だって突風が吹いた時に、人間界寿命管理部で働いている鬼どもが、窓でも開けて居眠りをしていて権蔵の蝋燭の火が消えたのでしょうか。原因は定かではありませんが、あの時の突風は、当に不意打ち同様で何の前触れもなくいきなりの事でしたし、瞬間最大風速は、おそらく567メートルをやや超えていたのは明らか。」
「そういえば、あの突風の翌日でしたね、彼が、人間界で息を引き取ったのは。ところで、純真よ。あの突風に付いて、閻魔は何か話していましたか?」
「いえ、閻魔様は、特に何も仰せになりませんでした。ただ・・その風と関係があるかどうかは分かりませんが、あの日、閻魔様は、2時間ほど時間休をお取りになりました。何ですか、急用を思い出したとかで・・」
「・・そうでしたか。ま、それは良いとして、権蔵は、何処へ行くと言いましたか?」
「何やらサルを待たせている・・ とか言ったすぐ後に消えてしまった様です。」
「毘沙門天配下の小者か・・」
「左様で・・ しかし、その小者の事などを何故に千手観音様がご存知なのでしょうか?」
「うん、顔が・・その配下の小者の顔が、本物の猿と見紛うほど と毘沙門天が話しておりましたので・・ しかし、見た目以上に気の利く死人だとも言っておりましたよ。」
「左様で御座いますか。あの逃げ出した権蔵とやらに、彼の死人の爪の垢でも少々飲ませて遣れば、訳の分からない事ばかり言うのも少しは収まりましょうに・・」
「さて、それは、どうでしょう。まあ、サルの話は置いて、私から権蔵に付いて話しましょう。
私は、人間界では、安心寺の和尚として暮らしております。何故、人間界で暮らす必要があるのかという話になるのですが、今、人間界は、嘗て我々が右天界と呼んでいた頃に比べ、まったく異質の世界となっています。総じていえば、人々は、お互いを思いやらず、己の利得をのみ追い求め、その為には同族の命など塵芥ほどの価値も無いかの如く奪い合っています。今も天界に暮らす我々は、彼等人間に、天界が左右に別れたばかりの時の様に、お互いの幸せを追求する方法は変われど、安らかに、急がず、皆が仲良くゆっくりと地に足を着けて進んで欲しいと願い続けて来ました。
だが、その願いに反し、人間達は、戦いという手っ取り早い方法で、ごく一部の者達だけの幸せを追求し続けています。最初、その戦いは、一人と一人が互いに姓名を名乗り合い、例え命を奪い合う蛮行に及ぶ前でさえ互いを尊重し命というものの大切さを思いやったものです。そして、刃で切り合い、互いが傷付いて死に行く姿を目の当たりに見て、自分の手で奪った命に手を合わせ、『何時の日にか、この私が消したあなたの命と再び出逢った時こそ、戦の無い世であります様に』と祈り、また次の相手に挑んで行くというものでした。ですから、命を失った者の髪を切り取り、戦いを終えるとその髪をそれぞれの家に持ち帰り、神棚や仏壇の前にまつり死者の供養を日々行っていました。
作品名:天界での展開(4) 作家名:荏田みつぎ