Disillusion
ここで立ち話もなんだし、とそのギルドのホームになっているところへ案内してもらえることになった。
「えっと、ここですか…?」
恵雅がちょっとがっかりした顔をしている。何せ廃ビル。出勤場所が廃ビルじゃ、かっこつかないな。
「さあ、意外と中は綺麗なんだ。ああ、あと私のことは玲子でいいからな。ホントに。あとお前らもギルドメンバーとして扱うか
ら、呼び捨てで良いね?」
なんだかんだで聞いてるくせに全部決定された口調だ。
「三國〜、優〜、帰ったよー。」
他に誰かいるのだろう、こえをかけている。
「お、玲子。見つかったか?」
三國と呼ばれた青年が呑気に雑誌を読んでいる。
「おいおい、今状況わかってんのか?計算によると例の奴の業(サイ)、段階水準(レベル)スリーなんでしょ?スリーなんて円卓機関の本部の元帥くらいよ?業圧はいくらだい?優」
優と呼ばれた眼鏡青年は計測画面を出す。
「八千九百七十です。」
玲子は絶句した。
「げ…元帥の二倍…。」
玲子は私と恵雅を連れて奥の部屋へ入った。
「向日葵は異端者(アウトサイダー)の知識はないわね?説明するからよくきいてね。」
間髪いれずに話を進める。
「まず、業(サイ)というのは貴方や私のような異端者(アウトサイダー)が得る能力ね。だいたい五〜六系統の能力があって、ソレは段階水準(レベル)スリーまであるの。私が使う雷波(レールガン)の段階水準(レベル)スリーは閃光雷衝弾(サンダーノーブル)。段階水準(レベル)ツーは雷衝穿空波(レイジレーザー)といった具合ね。貴方は剣現(ソード)と紅眼(レイズ)の系統を使えるようだし、そこらへんはなんとなくわかる?」
ようはこれ以外にも能力があってそれぞれ名前と段階水準(レベル)と系統があるってわけか。
「恵雅が使ってるのも業(サイ)なのか?」
ふるふると首を振ると玲子は説明を付け加えた。
「彼は堕天使(ゴージュマン)だから『才(サイ)』よ。」
「違いはあるのか?」
「才(サイ)には回復系の能力があるわ。違いって言ったらそれくらいね。恵雅は何が使える?」
恵雅は誇らしく鼻をならして答える。
「殆ど使えます」
さすがにこれには玲子も舌を巻いたらしい。暫く ほう。 とか はー。 ばかりいう。
「今知っとけばいいのはこれくらいかしら。とりあえず現状を説明すると、私が殺した反逆異端者(アウトサイダー)がめっちゃ強くなって戻ってきたわけ。ソレを倒さないとギルドホームごと全員消滅するわ。このまま真っ直ぐこっちにとんでくればあと三十分足らずで相手は到着するから。」
唐突にそんなことを言われた。一瞬意味が解らなかった。
「えっと…それは不味いんじゃないですか?」
恵雅が辛うじて反応。
「つまりその化け物を倒せと…?」
私も辛うじて聞き返す。
「うん。あとその人ギルドを管理する本部の円卓機関の元帥様より強いからがんばってね♪」
がんばってね♪ じゃねぇよ。何の冗談だ。
「ま、姉さんが言うからには君たちなら倒せるんじゃない?」
優がコーヒーをいれてくれたらしく、ソレを私たちの前に並べて微笑んだ。
「オレ達よりレイコのほうが強いんじゃないのか?」
レイコはやれやれという顔つきで答える
「アイツ、私だと手加減しないからな。それと、君たちそこそこ力があるのに私の地獄耳(インスペクト)にも業圧レーダーにも不思議と引っかからないんだ。君たちならばれずに忍んで奴を倒せる。不意打ちならさすがの奴も倒れるだろう。アイツ馬鹿だし。」
私たちはレイコからその男の顔写真をもらうと、今奴が駐留している場所に向かった。
向日葵が写真を持ってさくさく歩いていくから僕は急いで後を追う。もうあと数メートルでその場所が見える。しかしここは街中。こんな場所じゃ戦闘は出来ない。…いた。白髪の二十八歳くらいの男性だ。神父のような格好をしている。明らかに視線が集まる格好なのに、周りの視線はむしろ避けるように別の場所をむいている。
「向日葵…。いたよ…。」
僕が囁くと向日葵が見つけれてないらしく僕に前を譲った。僕らは静かに後を追う。
奴はいつしか街を抜け、僕らとともに廃墟群についていた。男はそこで暫く立ち止まった。
「なぁ…」
向日葵は話しかけようとした。僕は静かにと指で制した。すると男性は振り返った。僕は意を決して立ち上がる。向日葵もあわせた。
「おい坊主。俺が見えるのか?」
「この距離だし。そこそこ目がよければ見えるよ。」
男性は顔を引きつらせる。僕は何故驚いたのかわからなかったが、向日葵の一言ですべてがつながった。
「おい恵雅。お前誰と喋ってるんだ?」
僕は向日葵から男性に視線を移す。
「まさか…アンタ…!」
男性は驚いた表情を消し、滑稽そうに笑った。
「くっくっくっ…。私が姿を消したのすら解らないほどはっきりお前には見えてた(,,,,)らしいな。天童と手を組まれる前に消えてもらわないと」
ここで種明かしすると容赦されない為向日葵と目を合わせる。向日葵も察したらしく、頷いた。
「葛 恵雅。」
一応礼儀として名を名乗る。
「綾川(あやかわ) 昇(のぼる)。」
奴が名乗った瞬間向日葵の大きくないがよく通る声が轟く。
「綾川…昇なのか」
奴は目を瞠る。
「お前、いつからそこに」
昇はバックステップでさがる。
「オレだ。相原 向日葵だ。」
相原…?旧姓だろうか。向日葵と面識があったのか?
「向日葵…?そうか、思い出した!あの時孤児院にいた向日葵ちゃん?」
昇の顔から戦闘意識が一瞬にして消えて向日葵に近づく。
「どういうことだ?何故アンタがレイコと…」
レイコという名前を出すと、昇から笑顔が消えた。
「向日葵ちゃん。今は時間がない。天童から大方話を聞けば解る。俺の元にくるか、天童の道具に成り下がるか、どちらかを選びなさい。」
にこりと微笑むと向日葵の頭をなでて僕を見た。今度は戦闘意識があふれ出る笑顔で。
「坊主、向日葵ちゃんのこと頼むぞ。あと、次戦うときがくれば正々堂々と戦おうじゃないか。ハハハハハ!」
すると下に魔方陣があらわれ、僕達を吹き飛ばした。立ち上がると、もう奴はいなかった。
「向日葵、アイツと面識あったの?」
向日葵は珍しく少し名残惜しげに答える。
「オレに異端側(アウトサイド)の一番の基礎を教えてくれた人だ。名称とか。」
少し落ち込んでいる向日葵にこれ以上詳細を聞くのは酷だろう。僕はいつかの話をする。
「前に向日葵は人鋳型の話をしたよね。」
向日葵は頷きも返事もせずにこちらをみる。
「僕は人鋳型には共感した。だけど、毎世代同じものが出来るとは思わない。人鋳型はその個人が少しずつ作って最後に流しておしまいだ。それが少し早く出来るのが異端者(アウトサイダー)ってだけで、大して変わらない筈だ。」
向日葵は冷淡な貌に戻っていた。
「それを一般人が聞いたらどういうだろうな。オレみたいな化け物と一緒にされたんじゃな」
向日葵の言葉には少し皮肉感が混ざっていた。
「違う。向日葵は化け物じゃない。人間だよ。」
向日葵はいい加減にしろという目つきで僕を睨む。
作品名:Disillusion 作家名:紅蓮