Disillusion
「似てるんだ。僕の好きだった人に。」
私はそのときはそんな言葉、まったくもってきにならなかった。戯言程度にしか捉えなかった。恵雅は、今更ながらたずねてきた。
「ねぇ、前から聞こうと思ってたんだけどさ、君ってどうしてそんなに男っぽいの?」
そんな間の抜けたことを聞いてきた恵雅は意外と真剣な顔をしていた。
「油断しないためにだよ。私は三歳の頃からこの口調だ。」
自分以外にはな、と付け加えたのを恵雅も聞き拾った。
「じゃあ、油断してもいい奴にはその口調なんだね?」
確認のように聞いてくる。私はソイツが何を考えてるのか大体読めた。
「ああ。」
「じゃあ、僕の事、信頼できるようになったらさ、その自分の話しやすい口調で話してよ。」
私は無視して先に行く。それでも恵雅は私のすぐ横に移動する。暫く聞き続けてきたがもう聞いてこない。
今日も雨になりそうだ。そんなことを思っていると周りの気配が鋭くなる。私は五感を研ぎ澄ませる。恵雅をちらっとみた。彼の眼から笑みが消えていた。戦闘を合図する態度だった。
「そんなに警戒しなくてもいいよ。」
声は私のうなじからだった。振り向いてバックステップした。そこには二十代前半くらいの若い女性がいた。どことなく見たことある感じだった。
「恵雅っ!」
私の声に反応するように恵雅は叫ぶ。
「剣合(セイバー)ァァ!!」
恵雅の腕がサーベル状に変形する。私も同時に短剣を出す。
「うわっ、ちょっとまった、敵じゃないって、マジで」
ちょっと本気であせってるところから敵じゃないと判定し私は手を下ろす。恵雅もソレをみて手を戻す。
「燈条さん、私、私だよ」
私はその人をじっとり見ると、なんと言う勘違いだと、自分の失態に気づく。
「天童先生…。」
先生はえへへーと張りのない笑みをこぼす。
「玲子でいいよ。どうせ私今日で教師の仕事終わりだもん。」
彼女の言葉に私は眼が点になった。
「は、はい?終わり?」
そのとき、彼女の眼に強い光が点される。
「私は、貴方たちを探してたのよ。貴方たち、異端側(アウトサイド)ね。」
彼女の張り詰めた声に私は気を鋭くした。それをぶち壊すかのようにキーの外れた声が飛ぶ。
「あぁぁ!貴方は!」
「だから先生っつってんでしょ」
「そうじゃなくてっ!」
私達は恵雅の発言に首をかしげた。
「三年前、僕の…!」
玲子は思い出したように言った。
「あぁ。君はあの時のヒステリック自殺未遂君か。」
私にはまったく意味が解らず、二人のやり取りを見ていた。
「ところで先生。ボク達への本来の用件は?」
私の言葉を受けた玲子はポケットから煙草をとりだして口にくわえた。ピース・ミディアム、タール十四ミリグラムのようだ。
「生徒の目の前で堂々と煙草を吸うのはどうかと思いますが」
私がつっこむとちょっと咳き込んで地面に落として火を消した。
「まず、貴方たち、何者?」
玲子が尋ねてくる。今さっき自分で異端側(アウトサイド)の人間だといいあてていたのに。
「先生自分で言い当てたじゃないですか。」
恵雅がそういうと先生は持っていたアタッシュケースをパカンと開いてスタンガンと髭剃りが混ざったような物をだす。
「それはそうなんだけどね。君たちは異端者(アウトサイダー)でも堕天使(ゴージュマン)でもないっぽいんだよねぇ。」
先生はそういうとその機器を私の腕にあてたあと、その機器についている表示画面を私に見せ付けるとため息をついた。
「一応、これは壊狂者(ブラックアウトサイダー)と異端者(アウトサイダー)と堕天使(ゴージュマン)と人間の全種に反応する物質を使ってるんだけど、貴方たちだけはエラーがでるのよね。」
玲子が言うには、その反応状態を見て機器が反応して表示画面にそれが表示されるらしい。
「つまりボク達がそのどれにも当てはまらないと?」
と、いうより といいながら欠伸をしてだるそうに頭を掻いて話を続けた。
「アンタ達どれくらい一緒にいるの?」
恵雅が即座に答える。
「1週間と4日です。」
すると玲子がニヤニヤしながらとんでもないことを囁いた。
「ほうほう。たったそれだけの期間でこんなにもラブってるわけか。うんうん、若いっていいねぇ」
恵雅が吹く、私は怒りでプルプル震えていた。
「いや、先生、あの、その、そ、そ、そういう関係じゃないんですよ、僕たちは」
恵雅が赤面しながら弁解している。私は既に剣を抜いていた。
「向日葵、おちつけ!冗談にいちいち切れるな!」
恵雅がまだ赤面しつつ私を宥めようとした。私は赤面したコイツに腹が立って顔面を思いっきり殴った。
「うごっ」
恵雅が鼻を押さえてもがいているのを他所に玲子と本題へ戻る。
「まあ、期間を聞いたのは堕天使(ゴージュマン)自体が数が少なくて、葛君以外の堕天使(ゴージュマン)はもういないだろうね。前例も一人しかいないから存在自体が危ういんだけどね。だから、堕天使(ゴージュマン)と異端者(アウトサイダー)がいるとどういう影響を齎すのかわからないんだ。」
玲子は一呼吸おくと別のことを聞いてきた。
「ところで、二人は学校に思い入れとかある?」
私は首をフルフルと振る。恵雅は少し難しげな顔をしていた。
「ほかはいいんだけど…宗谷が心配だな。」
玲子は少し顎に手を当てる。
「燈条さん、大して思い入れがないなら学校辞めてうちこない?葛君は暇なときに合流するって事で。」
つまり私に働けと?そんな無茶な。
「うちに母がいるんですが。」
「知ってるよ。朝にご飯作ってるんでしょ。そのあと夜まで出勤。葛君はクラブは入ってないから家族にクラブに入るという名目で夜まで出勤でどう?」
何故この人そんなことまで…。
「まあいいですけど、その前にまず貴方の正体を明かしてくれますか?あと給料の額も。」
私の言葉にわざとらしく胸を張って自慢げに自分を紹介した。
「私は異端側同盟(チームアウトサイド)、ギルドマスター天童玲子。天宮ワルキューレの扉から唯一戻ってきた異端者(アウトサイダー)だ。」
恵雅は目を瞠った。
「な、ワルキューレの扉から帰ってきた!?そんな馬鹿な!あれは殺された異端者(アウトサイダー)の投げいられる、血と死臭に塗れた異次元だときいていますよ!」
話しの内容が半分しか理解できない私を置いてけぼりに話は進む。
「だから殺された(,,,,)んだ。私は。」
ニタリと恵雅をおちょくるように笑う。
「そんな…有り得ないんじゃ」
大体の話を整理すると、玲子は死体しか入れない場所に一度入って、そこから唯一戻ってきたということだろう。その死体しか入れない場所が天宮ワルキューレという場所らしい。
「つまり自分は死体から生命力を回復させ生体に戻ったと?」
私が結論を聞くと玲子は不気味に笑った。
「私は殺されたとはいったが死体になったなんていってないぞ。私は殺されたが、それでも中身は生きている。私は中身がある時点で死んでるが生きてたんだよ。お陰で僅かにまだ息があった異端者(アウトサイダー)から生命力を吸い取って扉を破壊したんだよ。そのあと運よく無実を証明してこうしてギルドマスターになれたわけだ。」
作品名:Disillusion 作家名:紅蓮