Disillusion
進学を正式に完了して一日が終了した。運良く宗谷と同じクラスになった。その日は対して何も印象に残らず無駄に過ぎていった。そして翌日、彼女と出会った。一目見た瞬間、体中がざわついた。体中の血液が速度を増しながらフル回転してゆく。顔も、声も名前も違う。でも、雰囲気が異様なほどに似ていた。でも彼女は存在が居座っているように思えた。彼女が異端者(アウトサイダー)であることは一瞬でわかった。そして、あの時自らの手で壊してしまった彼女の影を重ねて、この子は、今度は守ってあげようとおもったんだ。誰よりも強く。
「燈条さん」
彼女は静かに振り向いた暫く僕をみて、そして振り返って歩き出した。僕は静かに彼女に歩み寄り、傘を差した。今度は見逃さないように、ずっと気にかけようと思った。
「アンタ…誰?」
彼女はまるで意識してないように僕に問いかけてきた。
「僕?僕は葛。葛 恵雅。」
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ガシャン。
ガレージのシャッターを何時もどおり荒々しく蹴り上げる。
「よっ…。」
使い込まれたオートバイに跨るとヘルメットを被り、エンジンを入れる。バイクにも、心にも。ガレージ内でいきなりスピードを出して吹っ飛ばす。そしてガレージを抜けるときにシャッターをまたも荒々しく叩き下ろす。
私の向かう先は廃ビル。そう。そこが私の本拠地。ギルド・ホームだ。
「おっはよー」
入った部屋は仕事部屋。何しろこの廃ビルは三人しか使っていないわけだ。
「また遅刻ですか? 貴方がマスターなのにここ最近で何回目ですか!姉さん!」
律儀にいつも注意してくるコイツ。コイツは私の義理の弟。天童(てんどう) 優(ゆう)。口うるさいけど意外と優しいとこもある。でもやっぱり口うるさい。典型的な眼鏡美男子。だが見慣れてる私には別にどうでもいいことだが。
「いやー、ごめんごめん。ついお酒のみすぎてさー」
「また酒か。よく飽きんな。玲子」
注意でもなく呆れられてしまった。言葉の割りに対して危機感も抱いてないし気にしてもないところが私が図太いというイメージで固められた要因だろう。呆れているのは三國(みくに) 恭(きょう)平(へい)。言葉の端々にでている威厳の割りになんとまだ十八歳。私の七つ下。でもしっかりもので、言葉だけでなく能力も知能も大人並みどころか円熟味が出だした四十代色を匂わせる。中学で終わってるのに学力は早稲田並み。コイツ化け物だろ、と私は思う。それで、私たちはここで何をやってるかというと…。
「エリア二十八区に壊狂者(ブラックアウトサイダー)とその予備軍がうろついているようだ。今日は三國と私が出ようか。」
三國は言葉を聞き終えないうちにいつのまにかロッカーから取り出した包帯に巻かれた何かを持って扉から出ようとしていた。
「あ、三國。お前は二十八区じゃないぞー。」
ピクリと三國の耳が反応した。すると振り返って私の近くにくる。
「何故だ。エリア二十八区は特大だぞ。俺が行くのが妥当じゃないのか…?」
声を震わせながら言う。
「君はエリア十八区」
私はその残酷極まりない判決を下すと道具を揃えて準備を済まして三國の肩に手を置いた。
「まあ、がんばりたまえ。はっはっはー」
「そんな…。久しぶりの…上玉だったのに…。」
三國にローテンションオーラが取り付いているさなか、優は三國を慰める。
「まあ、お前が帰ってくる頃には二十八区並みのを用意しとくよ。」
三國はなんとか活力を取り戻してポイントに向かった。私も二十八区へ行くとするか。
「優、ここ頼むよ。」
「あい」
優はそう生返事をすると椅子でくるくる回りながら口笛をふき出した。
ガチャリ。
扉を閉めて、エレベーターでフロントへ向かう。私のバイクは何時もそこに止めてある。
ウィィィィィィン…ガコンガコン。
今の音は確実にまずい音だ。そう思っていると案の定エレベーターは止まった。エレベーターの天井の扉を叩いてはずす。すると上からひらひらと紙が落ちてきた。
『さっきのおかえしでエレベーターをとめてやった。バイクも借りていくぞ。 三國より』
グシャッ
あの馬鹿…。あとでたんまりお仕置きしなきゃな。私はエレベーターを蹴ったくる。
ガコンガコン…。ヴヴヴ…ヴィィィィィィン。
動き出した。フロントを抜けて駐車場にとめてある私のサブカーを使うことにした。
「今日はフェラーリだな。」
私は基本高級外車だ。あれじゃないと酔う。車にエンジンをかけて飛び出した。私が高級外車を所有できるだけの金をどうやって手に入れてるかというと、壊狂者(ブラックアウトサイダー)から採取できる非常に珍しい成分、ヴェルニン。一グラム八万円。何しろ量が少ないため、相場は私が初期設定した。そして壊狂者(ブラックアウトサイダー)を倒せるのは『サイ』得し異端側(アウトサイド)の者のみ。私が立ち上げた異端側同盟(チームアウトサイド)にはぴったりの裏事業(しごと)じゃないか。月・二千万は下らない。世間様方は壊狂者(ブラックアウトサイダー)がらみの事件が減って大助かり…と。経済的にも治安的にも優しい事業だ。「あんまり楽観視するな」という三國の声がきこえたきがして危うく吹きかけた。
「ここか。いかにも出そうな雰囲気ね。」
背面に大きな影を見た。私は驚きも、振り向きもせずに背後からの一撃を指ではじく。
「お出ましね。」
ゆったりと振り返った私の目の前には、突然変異したかのような生物、壊狂者(ブラックアウトサイダー)がいる。
もう一度ソレは腕を振り上げ、私を潰そうとする。
「…雷波(レールガン)!」
私の指から超高濃度のビリビリレーザーが放たれる。もちろん、人間が食らえば即死級の。
「おぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっぉぉぉぉうぉぉああああぁぁぁ」
ソレはまるで不協和音のように二重音声の声を放ちながら逃げていく。
「…地獄耳(インスペクト)!」
屈んで地面に手をついた。そして私を中心に大気の輪が広がる。
「反応段階水準(レベル)…中… 移動速度… 時速十二キロ…。 優、聞こえる?エリア二十七に転送して。」
私のポッケに忍ばせた通信機から優の了解の声が聞こえる。私は自分を中心に方陣を描く。
「逃がさないわよ…特大ゴリラ!」
転移風で髪が翻る。転移先にそいつはいた。私は到着早々雷波(レールガン)をお見舞いした。
バリバリバリッ…パリッ…。
「致命中枢…特定。電圧調整…完了!食らえ!」
私は自分の能力の段階水準(レベル)ツーを開放する為の過程を、振り向く体勢での片足軸回転の合間に終わらせる。そして回転の終わりに踏み込む足と同時に雷波(レールガン)系統の段階水準(レベル)ツーを繰り出す。
「雷衝穿空波(レイジレーザー)!」
特定した致命中枢どころか敵を丸々飲み込む電撃砲を放つ。
その頃ギルドホームでは…。
「あだだだだだだだっ!」
私の大量放電でおきた超磁力による通信機の発狂のおかげで優の耳がご愁傷様になっていた。
パリッパリッ…。
作品名:Disillusion 作家名:紅蓮