Disillusion
横を向くと微笑んでる葛。だがその笑顔は、なんだかどこか痛い笑顔だった。
「恵…雅」
そう呼ぶとその痛い笑顔を振り払うように純粋な笑顔になった。そして恵雅は話を続けた。
「僕は、向日葵の様に、異端者(アウトサイダー)じゃない。でも、異端側(アウトサイド)を知っている。」
コイツは私が異端者(アウトサイダー)だという事を既に前提にしている。コイツも異端者(アウトサイダー)ではないかと疑ったが違い、でも異端側(アウトサイド)を知っている。矛盾している。コイツ…、壊狂者(成り損ない)か?異端者(アウトサイダー)に成り損なった壊狂者(ブラックアウトサイダー)なら納得がいく。だが壊狂者(ブラックアウトサイダー)なら理性なんかないはず。その上ここまで優しいとなればその線は薄い。コイツ…。何だ(,,)?
「僕はね、異端者(アウトサイダー)と壊狂者(ブラックアウトサイダー)を知っているんだ。憎しみの広大さと罪の高さを知り、異(アウ)端者(トサイダー)と壊狂者(ブラックアウトサイダー)と人間、そのどれもに当て嵌まらない存在。堕天使(ゴージュマン)。それが僕なんだ。」
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夜風は気持ちがいい。まるで普段、風の当たらない躯(カラダ)の中までするすると通り抜けていく様だ。そっと手を前に出して掴んでみようとする。勿論、掴めやしない。
「えみくん〜。ごはんのよういできるよー。」
妹の声がする。ベランダからリビングへと戻る。
「まったく。恵雅、アンタいつからそんな繊細な趣味持つようになったのよ。夜の風浴みなんて。」
姉が腰に片手をあてながらいう。
「いいでしょ。別に。」
僕は姉の言葉を流すとカウンターに置かれた料理の乗った皿を大きなテーブルへと持っていく。
「さて、と…。」
僕はそう言うと、自分の部屋に戻った。明日は学習合宿。用意はきっちりしないと。宗谷から何を持っていくかと聞かれた。こういう系統の行事の時そう聞かれると、大体何を僕に期待してるか読める。でも僕はあえて律儀に、「しおり」に書いてあるものだよ、と答えておく。僕だってそういうことがしたくない訳じゃない。むしろしたいくらいだ。それでも僕は自分に抑制をかけて
何も持っていかない。
「……。」
僕は一刀の短刀を見つめる。そしてポッケへと忍ばせる。その動作を終えるとリビングから声が飛んでくる。
「えみくうん」
何で妹にえみくんと呼ばれてるのか。理由があれば僕が知りたい。
「はいはい、いまいくよー。」
うちの決まりその一。ご飯中にテレビをつけない。うちの決まりその二。ゲームは一日一時間。「フッツー」の家庭である。まあ大して不満もないから別にいいんだけどね。無駄な所だけしっかりしている妹。マイペースで興味のあることにはすごい速度で食いつき、フッツーにひとを脅して楽しむ姉。この二人のおかげで毎日退屈しない。間違いなく典型的な家族の形だろうな。改めてそう思うと笑みが出てきた。
「恵雅?何にやけてんの?」
姉に言われると急いで笑みを消した。
食事を済ませると僕は夜の散歩に出る。親には了解を取ってるので別に問題はない。だが親はその意図がわからないためちょっと心配してるらしい。まあ、僕にとっては意外と「大事な予定」なんだけどね。
「行ってきます。」
一言言うとドアを開いて外へ出た。
夜の道を駆けていく。左の角を回るとだんだんと町に近づいていく。町の商店街を猛ダッシュで抜け去る。頭の中には一人の女の子の顔とその子の名前。
「はぁ…はぁ…。遠藤さん…。」
町を抜け、少し山を登ったところに彼女はいる。家が見えると、僕は少しスピードを落とした。
家の前に着いた。僕は出る時にポケットに入れていたナイフを取り出す。それを鞘から抜く。それを自分の前に突き出し、心の中で呟く。
「(柔らかな風…壮麗たる聖刻の許、飛び立ち給え。 Flight ! )」
最後の言葉で眼を見開き、ぐっと手に握られた短剣に力を込める。すると、自分の下に円状の文様が描かれていく。
「(今日が最後だ…!頼む!)」
その文様は少しずつ光を放ち始める。…だが。
シューン…。
抜けていくような音ともに光は消えていく。
「くそっ…。」
ぜいぜいと喘ぎながら敗北すら匂わせる言葉を吐き捨てる。するとガラリと窓が開く。
「残念だったな。」
高い綺麗な女の子の声がするどく嘲りを含めて飛んでくる。
「今回が最後だったな。じゃあ、残念だがオレの名前は教えられないな。」
そう、この女の子とはある対決をしていた。この子と知り合ったのは二週間前。突然学校に転校してきた、その日から今日まで学校に通うことになった女の子。先生が名前を紹介しようとしたが、彼女が睨み付けて静止した。そして鋭く挑発するかのごとく言った。
「ボクの名前が知りたかったら、ボクと勝負しましょう。」
他の奴らは呆れて相手にしなかった。でも僕にはどうしてもわざと突き放している様にしか見えなかった。数人は勝負しにいったが、何をやってもぼろ負けして結局諦めた。でも僕は挑み続けた。そして一週間がたったころ。
「っくそ。またまけた。」
僕は諦めずに挑み続けた。でも結果は何時も見えていた。みんなは相手こそしなかったが、いつもこっそり傍観していた。
「お前、往生際が悪いというか、負けず嫌いというか。よく飽きないな。」
「君がソレを言うのは反則だよ。」
僕は椅子を前後に揺らしながら拗ねるようにいった。すると彼女は今まで見せなかった笑顔を見せた。
「じゃあ勝負の内容をひとつに絞ろう。これオレの住所な。今日、夜八時にここに来い。負けるのが怖けりゃ逃げても良いんだぜ。」
最後ら辺はせせら笑いになっていたが、それでも僕は十分だった。そしてその夜、彼女に会いに行った。
「遠藤さぁん。」
しまりない声だな、と自分で思った。それでも彼女には聞こえたらしく、窓が開いて、遠藤さんは顔をひょこっとだした。
「…来たな。」
遠藤さんは窓から飛び降りた。そう、二階の窓から。
「え、遠藤さ―」
そう言いかけた時にはもう遠藤さんは僕の真上にいた。ちょうど落ちてくる勢いで、その手に握ったナイフを振り翳し。僕の中の信号が青から黄色をすっ飛ばして赤へと切り替わる。僕は後ろに崩れるように飛び退いた。遠藤さんはもはや人の領域から出たような動きをした。地面に着地する寸前にかなり勢いが軽減され、地面についた爪先だけで僕の方へ飛んできた。僕は斬られると思った。そして片手で容易く突き破られる体の自然防御に身を任せた。すると遠藤さんとそのナイフの切っ先は僕の自然防御ででた片手がまるで弾き続けてる様に防いでいた。僕はソレが何かも解らないまま勢いに任せて遠藤さんを弾き返した。ソレと同時になんとか体勢を整えた。すると遠藤さんはさっきの感じをさっさと消して顎に手を当てて何かを考え出した。僕は何がなんだかわからず、混乱しながら警戒を緩めた。
「やっぱな。お前、素質あるぜ。」
遠藤さんはあっさりそういってナイフを僕の手前に突き刺す形で投げた。
「素質?」
聞き返すと遠藤さんは口の端を吊り上げて笑う。どこかぎこちない。
作品名:Disillusion 作家名:紅蓮