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Disillusion

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優が少し心配気味に見やる。三國はそれをひょいと避けて何故か配置されていた医療用ベッドに寝かせる。
「案ずるな。ソレは見た目だけだ。処置を施せ、と承ったはずだが。」
よく見ると身体にはいくつか布が強めに巻かれている。あまり血は出ていない。
「この短時間で止血までしたのか」
「帰りながら急いでやった」
早くやれと三國は促す。玲子はそれにやれやれと深くため息を吐く。吐きながらも始める。
「暫く休暇だな、これは」






/3


深い闇。それらが自らに纏わり、塗り替え、染め上げていく。

不快だ。

浮かぶイメージはそれだけ。こんな深い闇に触れ続けてきた彼女は、よく壊れなかったものだ。まあ、歪んではしまったが。
「人のことは言えまいか」
そう、結局歪んでるのは当たり前。在る場所の歪みを押しのけてまで真っ直ぐで在る事なんて出来ない。世は歪む。人という醜い生き物がいる限り。ただ、それを醜いという人間はさらに醜い。自分が醜いと自覚してそれでも嫌っていられる人間はある意味正しい。人間を生き汚いの罵る奴は現にそう在れない。醜いと嫌い、人間を捨てる。俗に言う青臭い正義とやらで。

自分は人並みに、幸せに生きてはいけない。それが彼女の思想の根本。


皆同じ。ただ自分独りがおかしい。
彼女はソレを無意識に感じ取り、ソレを無視した。自分には関係ないことなのだから。ただ、彼女は人を醜いとは言わない。人間は醜いというが。でもそれ以上さらに『自分』が醜いと思っている。人間が醜い、つまり自分も人間だから醜いという話は良くあることだ。だが、彼女は順当順位がない。その醜い二つがそれぞれ個別として考えられている。
「(自分こそこの世で一番異常だと考える少女)」

自分は自分のために生きてはいけない。それが彼の思想の根本。

皆同じ。ただ自分一人がいない。
彼はソレを意識して感じ取り、ソレを言い聞かせた。誰にも悟られないように。ただ、彼は人を醜いとは言わない。人間は醜い。でもそれ以上に良い人がいると思っている。人間が醜い、つまり人も醜いという話は良くあることだ。だが彼には人を嫌うという要素がない。その性質に本人も気づいていない。
「(自分こそこの世で一番希薄だと感じる少年)」

どちらにしても揺ぎ無き、綺麗過ぎる子だ。

「似たもの同士、か」

空気が揺れる。そしてまた静まる。
「取り込み中だ。邪魔するな」
そういって筒の包帯を解く。筒、というよりかは銃器だが。
「刀が直るまでは、暫くこっち頼りになりそうだな」
そして、数発放ってすぐに片が付いた。
「こんなにも力を持て余しているのに、俺は何一つ出来やしないのか」
自嘲気味に嗤ってみるが、それもそうだと結局納得した。これは俺には関係ない。関係しようとしたところで、彼女に拒まれる。ソレは仕様の無いことだ。
 こうして夜も更けていく。白すぎる月は透けていき、初めからなかったように。




ああ、私は空っぽだ。軽すぎる。きっと私は、空隙塗(まみ)れのそんな自分の軽さに耐えられない。私に大きな穴でも開いたのだろうか、入ってきたと思ったものは通り過ぎてゆく。初めは穴など無かったのだろう。私はその身体に、自分自身で少しずつ穴を開けていった。温かい日々も、温かい人も、温かい生活も、温かい “私” も、私が消したんだ。 “私” は “ ” に成り下がった。でも


“ ” も私であることは変わらない。誰もその存在を肩代わりしてくれない。出来るはずもない。かといって死ぬ気もない。まだやることが残っている。
「あぁ、なんだ。私はこんなにも都合のいい、人間と大して変わらないじゃないか。」
それでも私は辿りついた。たった一人私を引き戻そうとした、世界一馬鹿で幸せ者。
「恵雅」
ただアイツのために。その温もりの残ってるうちに。 “私” が “ ” に戻る前に。

「来たのか。己が生命(イノチ)も省みずに。」
「省みる?馬鹿をいうな。その理由が、私にはもうない」

さよなら。もう温もりはいらない。温もりはここまでで、置いて往く。ただ、そのために。冷たい心じゃないと、泣いてしまいそうだから。

「…始めようぜ、昇…。…お前の尻拭いをさァ!!」
引き抜く。向ける。斬る。数瞬有れば出来る。出来るはずだった。
「ふ」
軽く息を吹き、昇の重い一撃がミシミシと身体を撓らせる。
「う、ぐぅ…っ、…ふ…っ」
呻く。攻撃が通らなかった。その理由は、私が一番わかっていた。
「どうした。さっきの、否、いつもの威勢は」
殴られる。分かってたって避けれない。

ゴッ

辛うじて骨は折れてない。でも、すごく痛い。いつもなら、どうだっていいって、鼻で嗤えるのに。
「答える気力もないのか」
次は膝蹴り。避けれない。

ミシミシ ゴキン

脳裏に響く音。いつもなら、何本いったか確認して、すぐ動作に入るのに。
 もう昇は何も言わない。次は止めが来る。私は地面に伏した。

私が弱い理由。それは、簡単。温かいからだ。温もりをまだ捨てられず、身体が擦り切れるまで大事に握り締めているからだ。  


辛い、辛いよ、恵雅。いつものように笑ってよ。いつものように、傍にいてよ。そんな懇願しか浮かばない。瞳に涙が溜まる

「痛いか、燈条」
声が聞こえる。誰か判別する事すら出来ないほどに弱っていた。
「レイ、コ…か」
目が熱い。涙は眼から落ちていく。もう意識も落ちそうだ。数秒保(も)てば良い方だろう。そこに絶望的な攻撃を加えようとする昇が、レイコの登場を訝しむ。
「今のお前じゃ、勝てないよ。誰にも。」
はっきりといわれた。でももういいんだ。それは分かってることだから。
「恵雅はお前になにを伝えた?」

あれ、そういえば何か…。口元が動いていた。何か、大事なことを言っていたのか。思い出せ、思い出せ。恵雅は何を伝えようとしていた?

「ひ、ま…わり…。僕は、君が…」




好きだ。





飾り気のないその言葉で、恵雅は私にそういった。人としてなのか、女としてなのかわからないけれど。

「―――――――っ―――――」

そうか、私に “私” も “ ” もなかったんだ。私は私。壊れるとか、戻るとか、そんな概念はなかったんだ。
私は悟った。恵雅は生きている。レイコの言葉には、言い遺すとか最後とかの言葉が見受けられない。
「……レイコ、面倒だ、後は頼んだ。」
「事務所にいるぞ」



知らずに私の顔は綻んでいた。ソレはいつもの冷笑ではなく、なんだか久しぶりにする、本当の笑顔ってやつだった。




「さて、綾川。久しぶりの対面だな」
奴に問う。
「そうでもないさ。ほんの数年だろう」
奴は答える。
「そうだな。お前にしてみれば、数週間と変わらんか。」
私は一呼吸おいて正しく言い直す。
「お前、幾つだ」

綾川は口の端を曲げて答える。
「そうだな。もう三百(、)いってるんじゃないか」

私は問答をやめる。コイツは、私には殺せない。

「玲子…。貴様、まさかその身体で私を殺そう、などと思っているんじゃなかろうな」
勿論、
「当たり前だ。殺す気で行くぞ。あの状態の向日葵に腕一本獲られる雑魚に負けるつもりは無いんでな」
作品名:Disillusion 作家名:紅蓮