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Disillusion

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「いい加減くたばれ!」
絶望しかなかった。電撃が走る。叫び声はあげなかった。綾川に一矢報いた。これで暫くは動けまい。
僕は貨物倉庫の扉に叩きつけられた。綾川は、倉庫の中に入ろうとしている。せめてもう一矢くらい報いてやりたかったが、残念ながら、もう体が動かない。

ああ、死ぬんだ
そう思った僕の目に、求めていた彼女が今頃になって現れる。
「…遅いよ…馬鹿。お陰で…死ぬじゃないか…。」
吐血する。今度は量が多い。僕の周りは血だまりになっていた。おそらく半分以上の血が流れたのだろう。向日葵は凍り付いている。僕は、疾うに動かなくなった手でさっきまで握っていたナイフを握ろうとする。血で、痙攣で何度も滑り落ちる。やっとつかめた。そのまま、放り投げる。
「…こ、れ、忘れ、も、の…」
ガクン
体の力が抜ける。だんだん、寒くなっていく。冷たい。
「恵、雅」
向日葵は蒼白な顔で僕の名を呼ぶ。
「ひま…わ、り」
僕は寒くて震える口で、君の名を呼ぶ。



最後に見た光景は、うれしいものだった。
「え、みや…どうして」
向日葵の泣く姿だった。ソレが一番嫌いなのに、僕のために泣いてくれる向日葵が、とても暖かく感じた。


そして、僕の世界は終わりを告げた。


「さよなら」
最後にこういい残した。
「ありがと」



















第 3 部      「 た だ そ の た め に  」

─誓おう。ただそのために。それにしがみ付くしかないから、自分の全てを賭けて―


/1


言葉が出なかった。こいつは馬鹿なことに、私を待ち伏せするため、先に綾川と戦っていた。莫迦な、勝てるはずもないだろうに。こんな化け物相手に。
「…遅いよ…馬鹿。お陰で…死ぬじゃないか…。」
吐血する。今度は量が多い。恵雅の周りは血だまりになっていた。おそらく半分以上の血が流れたのだろう。私は凍り付いている。恵雅は、疾うに動かなくなったであろう手でナイフを握ろうとする。血で、痙攣で何度も滑り落ちる。やっと掴んだ。そのまま、私に放り投げる。
「…こ、れ、忘れ、も、の…」
ガクン
体の力が抜けていく。カタカタと振るえ、とても青ざめている。
「恵、雅」
私は蒼白な顔で君の名を呼ぶ。
「ひ、ま…わり」
君は寒くて震える口で、私の名を呼ぶ。

恵雅の目はだんだんと虚ろになる。
「え、みや…どうして」
気がつくと目からぼろぼろと涙をこぼしていた。あふれて、止まらない。


恵雅は、もう死んでいるようにしか見えなかった。口元が長々と動く。だが、私はそれを聞き取れない。ただ、最後に。

「さよなら」
こういい残した。
「ありがと」





あぁ、死んだんだ。私のせいで、私独り残して。また私は、罪に罪を塗り重ねて、さらにまた上に罪を重ねあげる。もう反応のない恵雅に私は一言言った。
「ごめん、…」
謝罪の言葉を。そして、放り投げられたナイフをより強く握る。
「昇…お前だけは」
私は求ム。奴を。そして壊す。完膚なきまでに。



「心を壊されて、なお動くか。恐ろしいな。」
私は無視する。急速に近づく。壊せ、壊せ壊せ。衝動が私を突き動かす。
「お前だけは――――!」
殺す。そのニュアンスは相手にも伝わったのだろう。気が引き締まる。

来る。

「餓鬼風情が」
綾川の強大な力が私に向けられる。私はなす術も無く、飲み込まれる。




でも、私のほうが強い。

「邪魔だ」

ゴチュッ

綾川の腕が落ちる

「ぐ…!?」
驚愕と苦痛で顔が歪む。私は容赦しない。バックステップに横への力を加えてなるべく遠くに逃げようとするが、それも読めている。次に行くであろう場所にナイフを投げる。
グチッ


肉が裂ける音がする。狙い通り、腕の辺りにナイフが刺さる。

「な…」
叫ばずに呻く。私は短刀を出す。
「剣現(ソード)」
そして容赦なく次の攻撃を叩き込もうと近づく。もっと速く。私の中に怒りが募れば募るほど、能力は上がっていく。
綾川も反撃に出る。矢のようなものを飛ばしてきたが、そんなものは意味も興味もない。私の怒りに丁度いい色で、結界を張る。
「朱劉結界(プロテクション)…。こんな短時間で何故そこまで能力が発現する…!?」
焦る顔。ざまぁみろ。心の中で何度も罵り、無視する。
「くたばれ」
綾川はまだ隠し駒があった。
「残念だが、まだ死ぬわけにはいかないんでな」
そういって私とわずか距離をとり、
「消えろ!」
強烈な、それでいて凶悪な意志の塊、必然的に殺意に繋がる力が一度に放たれる。
槍のような矢の衝撃が、私を貫きかけた(、、、)。
「…だから邪魔だっていってるだろうが!!」
私はソレも切り捨てる。自らに顕(あらわ)せるすべての負の感情を、ありったけ叫ぶ。能力もソレに比例する。
「ちっ、分が悪いな。…悪いがここらで退散させてもらう」
逃がさない。逃がすものか
「…逃げるのか!」
私の叫びも虚しく、奴は逃げていった。
「…諦めるものか。この手で貴様の息の根を止めるまでは」
無駄と判っていても口に出す。そうしてないと壊れてしまいそうだったから。


私は闇を見た。その闇は深淵で、底がない。私はまだ落ちていく。深い、自分自身とは気づかない闇に。










/2


ピチッ ピチッ
事務所の窓に水滴が弾ける。
「ふむ。間に合わなかったか。二つ目の意味で」
「向日葵の能力具現か。下手をすればそっちの因で果が破滅、ってのもありえるな」
相も変わらず事務的な口調が続く。玲子は書類に目をやりつつも、整理は一向に捗(はかど)らない。三國はどこか静寂感が宿る瞳で外に視線をやっている。
「…珍しいですね」
優が心の内を射抜くように一言だけ言う。
「…ふん」
鼻を鳴らす玲子。どうやらあまり好きな話ではないらしい。
「貴女は元々、感情の起伏が激しい人です。それだけあの子達を信頼してるんでしょう」
「分かってるなら一々口に出すな」
聞いてるだけで恥ずかしいと、自分の心の乱れを嘲(わら)う。玲子は一見、平静を保っているように見えるがその実とても感情に深く自身を根付かせている。切っても切り離せぬ程に。
「希望はあるか」
三國が丸い包帯で無骨に巻かれた細長い何かを背負い、まるで土産の希望を取るように聞く。
「そうだな、成るだけ丁寧に。そのまま処置可能なら軽くやっといてくれ。元々私はこっち専門じゃないんでな」
「承知」
三國は事務所を出た。


冷たい雨はただ不快だ。彼女はこんな中、ただずっと何かを求めるように彷徨っていたのか。
「それでも、異常(アウト)、とまではいえない」
変わった趣味、で終わりだ。
 そんなことを巡らせていると、目的地に着いた。
「酷くやられたな」
答えはない。言葉通り、酷くやられているから不思議じゃないか。
目の前にいるのは葛恵雅。まだ息はある。ただ、もう幾許あれば死ぬだろう。
「給料は弾んでもらうぞ、玲子」


届かぬと分かって、いない人に語りかける。
私は恵雅を抱えて事務所に戻った。


「間に合ったか」
状況と言葉ほど危機を抱いていない。
「結構出血が酷いね」
作品名:Disillusion 作家名:紅蓮