Disillusion
向日葵の力の発現と心の整理が付くまで持てばいい。それだけの時間、私なら稼げる。
「命知らずもいいところだな…玲子ッ!」
来る。
奴の戦術は一撃目に強大な爆発を加えて、持久戦に持ち込むってところか。まさかとは思ったが、馬鹿の一つ覚えみたいにまた同じ戦術を繰り返してくるとは。よほど自信が有るのか。
「消え去れ、旧友よ」
巨大な力が、放たれる。
砂塵と石が飛び散る。
綾川は余裕の笑みだが、私の姿を認めるとすぐさま顔を顰(しか)める。
「同じ戦術が私相手に通じると踏んだのか。愚かな」
複雑そうなものも、視野を広げて奥まで見渡せば案外単純なものだ。
「いつまでその余裕が続くかな」
綾川の手に、また力がこもる。勿論、簡単に避けれる。
「たわけ」
そう一言罵倒し、攻撃を加える。
「消え去るのはお前だ」
強烈な電撃が走る。綾川は結界を張るが、たぶん幾許ももたんだろう。
「ぬぅ!」
そんな風に私は甘く見ていた。
結界は威力を弱めない。私と綾川、両者の力が互角だという証だった。
「(まずい、このままでは相討ちだ…)」
綾川も、同じ事を考えていたらしい。徐々に力と力を引き剥がしつつある。
「(仕方がない。ここは)」
両者の力を完全に引き剥がす。そして逃げた(、、、)。綾川と背中合わせに。
「次は、殺すぞ」
綾川は、そんな言葉を置いていった。
ピシャッ
もう既にびしょ濡れになった靴が水を踏む。周りは雨ながら、傘を差した人で賑わっている。その街路を抜け、ゆっくりと歩を緩め、立ち止まる。目の前にあるのは事務所という名前の廃ビル。私の胸の奥は暖かいままで、もうそれに嫌悪は感じない。でも、まだ好意も持てないでいる。私は確認することにした。私は私。その言葉が本当なのか。
ガチャ
いる。目の前に。私を苦悩させる、単細胞で考えなしで御人好し、それでも私の総てを変えた奴。
「恵雅」
瞼は開いていない。顔は、蒼白といっていい程に白い。不安になって頬に手を当てる。
暖かい
安堵からか、また涙があふれる。暫く流しても無かったのに、何故こんなに急に。
「泣いているのか」
気づくと恵雅は目を覚ましていた。
「花粉症だ」
自分でも呆れるほど有り得ない言葉で言い訳をした。
「ふーん、そう」
苦笑しながらもそれ以上追及しない辺り、だいたい察されてしまったらしい。だからもう白状することにする。
「おい、心配掛けといてそんだけか」
恵雅は一瞬ぽかんとしたが、やがて微笑して答える。
「ありがとう」
「駄目。許さない」
我ながら馬鹿なことを言う。その後に何でもない言葉で締めくくる。
「だから、今度お前の知ってる限り旨い飯を食わせろ。あと、何か洋服を買え。」
これには恵雅も参ったようで、苦笑していた。ふん、このくらいがなんだっていうんだ。
そして今日も時間が過ぎる。死に掛けるほどの戦いを終えた後だということも忘れて。レイコは帰ってくると仕留められなかったのだろう、鼻を鳴らして酒をかっくらっていた。恵雅は少し病院通いもしたが、大事には至っていない。私は少し消毒する程度に済んでいた。レイコ談、
「あの無駄に強い馬鹿と戦ってよく生きてられたな。」
というほどに強い奴だったらしい。
昇は生きてる、壊狂者も出る。問題は山済みだとレイコはいう。だが、それでも私はそれに縋っていくしかない。強い私はそのままに、暖かい何かを取り込んで(ただ、『人』が少ないという認識だけを改めさせられたけど)。今でもその暖かいものが何かなんて説明がつかない。だけど、それは今までの寒々しい心の私が肌で感じて解き明かしていこうと思う。その御人好しに寄りかかって、面倒なものを全部押し付ける勢いで。いつか都合のいい答えが見つかって、覚醒できるその時を待ちながら。
ほんの少しだけ、前向きになったこの頃。
作品名:Disillusion 作家名:紅蓮