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桐生甘太郎
桐生甘太郎
novelistID. 68250
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サンタさん!お仕事ですよ!

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「うおお…寒さが堪えるなぁ…ここぁ大して北でもねえのに、えらい寒さだ…」

ある島国の上を飛び交っていた時、サンタはそうこぼした。仕事はもうすぐ終わる。あとはこの東の果てしか残っていなかった。

「それにしても、誰が言ったのかねえ。“いい子にしてなきゃサンタは来ない”なんてよぉ。子供はみーんないい子じゃねえか…」

すると、また子供の居る家の上なのか、トナカイが地上へ降り始めた。

「おっとっと…」

サンタが帽子に手を当て、滑空に備えてから、ソリのへりへ足を掛ける。


「あらよっと!」


ものすごいスピードで降り続けるソリから、サンタはぴょんと飛び降り、家の屋根へと足を着けた。

トナカイたちは地面へ降りて大人しく待っている。その間に、サンタは入れそうな抜け穴を探していた。

「おっ!あったあった…よっこいせ…」

いつも子供たちの家へとプレゼントを配り歩いているサンタにとって、それはなんでもない作業だった。

でも、ほんの少し開いていた台所のドアを外側からこじ開け、体を滑り込ませようとした時、サンタは今年一番の衝撃を食らうことになったのだ。

「いいいいいいい!!」

突如としてサンタの体が銀色の光に包まれ、彼は身動きが取れなくなって、「いいいい!」と叫び続けた。トナカイたちは気づかないまま、地面に生えた草を食んでいる。

その時、小さな影が、台所の隅の暗闇から立ち上がり、サンタの前へと躍り出た。

「つかまえた!」

そう言うと、その影が何がしかのスイッチを切り、台所の明かりを点ける。

サンタが正気づいて自分の体を見渡すと、赤い服には細い鉄線が絡みついていて、それは台所の窓に渡してあったものらしかった。

目の前には七歳ほどの子供が一人。憤然とサンタを睨み上げて、得意そうに両腕を組んでいる。

「なんだぁ?お前か、こんなあぶねえ罠仕掛けたのはよぉ。危うくおっちぬところだ」

「死なないくらいにしたよ!死んでないじゃん!」

「へいへい、お口が達者でねぇ…」

サンタはとにかく、腕や首元から鉄線をなんとか外し、家の中へ入った。








子供は、台所のテーブルにサンタと向い合せに座り、じっとサンタを睨み続けた。

サンタにだって、この子供が自分に何かをしてほしいから捕まえたのだということくらいは、分かっていた。

“こういうときゃあ、喋りだすまで大人しくしてねえとな…”

そう見計らいながら、子供がぶきっちょにコップに注いだオレンジジュースを、遠慮なく飲んでいた。

子供がちょっとうつむくと、さっきまでの勇敢な眼差しがあっという間に不安げに曇り、それがおずおずとサンタを見上げる。

「うん?どうした?」

なるべく優しく促してみると、サンタを見て子供は泣きそうな顔になり、下を向いてこう叫んだ。


「…パパを…パパをうちに返してほしいんだ!」


“ああ、そうだった。手紙にはそう書いてあったな”

子供は、自分の願いが叶わないということを知っていて、だから不安で仕方ないのだ。サンタは考えた。

考えたところで、サンタにすらわからない。それは誰にもわからない。

親を亡くした子供をどう慰めればいい。そんなことは誰にもわからない。

サンタは胸が痛むのを隠してから、「パパ、いなくなったのか?」と子供に聞いた。

「うん…病気で…」

「そっか」

サンタはそこで、一呼吸を置いた。その間に、子供がまた一口つぶやく。

「…サンタさんにだって、無理だよね…」

子供はちっちゃな足を椅子からぶら下げて、膝の上で手を握る。そうしてうつむいて、泣き出した。

「そうだな。無理だ。それぁ、神さまにだってできないんだぜ、坊主」

「そうなの?」

「そうなんだ」

「そっかぁ…」

サンタはテーブルに肘をついて、くぴくぴとオレンジジュースの入ったコップを傾けながら、子供と話を始めた。

「なあ。坊主は、パパと何を話した?」

「んー…将来、パパみたいな先生になるって…」

「先生?パパ、先生だったのか?なんの?」

「ん!だいがくの先生だよ!“りこうがくぶ”なんだ!」

「すげえじゃねえか!俺なんかそんなの、てんでダメだぜ!」

「うん!だから僕、パパみたいな先生になるって約束して…パパにおべんきょう教えてもらって…」

そこで子供は、流れてきた涙を我慢しようと、袖口でぐしぐしと拭う。

「そうか、そうか…優しいパパだったんだな、すごくいいパパだったんだ」

「うん…!すごく、優しいから…ママが…もう元気がなくなっちゃって…」

子供は体を震わせて、顔に手のひらをこすりつける。サンタは子供の頭を撫でてやった。

「坊主、お前はえらいぞ。自分ばかりじゃなくて、ママのことも思いやれる」

「だって…あんなに悲しそうにしてたら…」

「うん、そうだ」

一頻り泣いてしまうと、子供は自分の分のコップに口をつけ、オレンジジュースを一息に、うっくんうっくん飲み干した。それをサンタはじっと見つめている。

「なあ、坊主よ」

「うん…?」

「パパがいないのはさびしいだろう。でもな、パパはお前のすぐそばにいるんだぜ」

「え、そうなの…?」

サンタは大きく腕を広げて笑う。

「そうさ。必ずそばで見てる。みんなそうなんだ。人は死んだら、どこにでも好きなところに行ける。だったらパパは、必ずお前のそばにいるはずだろう?」

子供はそれを聞き、もう一度涙を流した。

「うええん…」

「自分がいなくなって子供がさびしがってるなんて、ほっとく親がいるはずがねえ。パパはお前を見ててくれてる」

「そっかな…そっかな…!」

「そうだとも。そういうことなら、俺ぁちゃーんとわかってる」

「うん…!」