サンタさん!お仕事ですよ!
「さぁて。じゃあ夜の明けないうちにあと一回りしなきゃならないんでな。お別れの時間だ」
「あ、サンタさん!ちょっと待って!」
「なんだ?」
きょとんとしたサンタを置いて、子供は家の奥へと引っ込んでいき、戻ってきた時には、一枚の紙を手にしていた。
それはいくらかよれて皺が寄って、子供の字で何かが書き連ねてあり、その上から赤い丸がいくつも重ねてあった。
「なんだ?これ…テストかぁ?」
「これ、僕の大事なテストなんだ!はじめての百点なんだよ!いつか先生になる約束に、持っててよ!」
子供が元気よく叫んだことにサンタは顔をほころばせると、その紙をサンタ服の中にしまってから、子供の頭を撫でた。
「そうか、よしよし。ありがとな。大事に持っておくぜ」
トナカイたちは待ちくたびれてあくびをしていたが、子供と一緒に外に出てきたサンタを見て首を上げ、鈴を鳴らした。
「いよっと…」
ソリに乗ったサンタは子供に手を振ると、ふわりと浮かんでだんだん小さくなる。
「サンタさん!サンタさん!」
「元気でなぁー!」
「サンタさーん!」
子供は一生懸命背を伸ばし、ちっちゃな手をちぎれんばかりに振り回していた。
「おつかれさまでした!サンタさん!」
「おおう…疲れたよ…」
サンタは、今年も役目を終えて、フィンランドへ帰ってきた。
小人たちは、お風呂を沸かしてサンタが帰るのを待っていた。そして、お風呂から上がればすぐに食べられるように、食事の用意もしてあった。
暖炉の火には大鍋が掛けられ、その中ではコトコトとシチューが煮込まれている。それから、キッチンにある焼き窯からは、ほかほかのパンと、鮭のパイが運ばれてきた。
食後にかじるチョコレートクッキーと、サンタの大好きなウイスキーもちゃーんとテーブルに置いてある。キイキイ揺れる椅子に腰かけて、サンタは体をあたためながら、この一年を振り返っていた。
小人たちが一人、また一人と寄ってきて、サンタの思い出話を聞きたがった。
「お仕事お疲れ様です、サンタさん。今年もお話、聞かせてください」
「ああ、そうだな、じゃあまず…」
それから、暖炉の火に頬を赤くした小人たちに、サンタは長い話を聞かせていた。
End.
作品名:サンタさん!お仕事ですよ! 作家名:桐生甘太郎