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桐生甘太郎
桐生甘太郎
novelistID. 68250
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サンタさん!お仕事ですよ!

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一年のうち、たった一日のためのポスト、それが「サンタクロース」。もう何年も彼はその仕事に就いている。白い髭は自前で、ぶかぶかだったサンタ服は、近頃胴回りが少しきつくなってきた。

サンタクロースの趣味はギターを弾くことと、酒を飲むこと。

彼はその日も、恐ろしいほどの自分の速弾きに、自室で心酔していた。そうして酒を飲み、宅配ピザを食べながらテレビを見ていた。

でも、夜も更けてくると、彼はふとショットグラスを置き、ひと口つぶやく。

「明日からか…」

ピザの配達員は、サンタクロースの仮装をしていた。まさか、「Angel Metal」のTシャツを着た自分の方が本物のサンタクロースだとは思うまい。


それから彼はギターをケースにしまって、食べ終わったピザの箱や飲み終わったウイスキーの瓶をそのままに、手回り品を身につけ、壁に掛かっているサンタ服には目もくれず、外に出ようと扉を開けた。

「やーっぱり!サンタさん!明日からお仕事でしょう!」

「ひっ…!」

玄関口で、サンタクロースの足元には小人たちが集まり、そしてサンタの足にしがみついて行く手を阻む。

「逃げようったってダメです!子どもたちが待ってるんですよ!」

「…た、助けてくれ〜!!!」







小人たちに連れられてサンタはジープに詰め込まれると、それは山あいの工場のような建物の門をくぐり、車を降りたサンタたちは端っこの一室に入った。

「はい!今年のお手紙です!読み終わるまで出しませんからね!」

「勘弁してくれよ~毎年毎年…」

そこは、工場の中では小さめで天井も低かったが、大層たくさんの手紙で床が見えなかった。そう、子供たちがめいめいに書いた手紙が、世界中から集められてきていたのだ。

かわいいリボンのスタンプ、一生懸命に書いた「サンタクロースさまへ」の文字、それを一つ一つ確かめることもなく、あくる週の明けまでかけて、サンタクロースはすべてに目を通した。





フィンランドの山奥にも、朝が来た。

谷を渡っていくハクセキレイが「ピチュチュン、チュチュチュン…」と繰り返し地鳴きを響かせて、朝日を照り返した尾羽が、鋭く光る。

谷は雪に覆われ、木々は緑を奪われてじっと立ち尽くして、川は凍ってしまっていた。さっきのハクセキレイは、食べ物を探しに朝早くから出かけたようで、もう姿が見えない。

そんな中にある工場で、サンタが悲鳴を上げた。



「おーい!エナジードリンクよこせー!」

「サンタさん、サンタさん」

悲鳴を上げたように見えたサンタは机に突っ伏していて、小人が回りに箱を積み上げて背丈を合わせ、サンタを揺すっている。

「なんだようるせぇな…まだまだあるんだ…邪魔すんじゃ…ぐう…」

どうやら夢の中でも手紙の束に責め立てられているようで、小人が朝食を持ってきたというのに、寝言を言い続けている。

「サンタさん、サンタさんの好きな、お肉のパイですよ」

「特別に僕たちが町で買ってきたんです、朝ごはんですよ」

二人の小人が肩車をしてなんとかサンタの肩まで手を届かせ、ゆらゆら揺すると、サンタはやっと目を開けた。

「うーん…なんでぃ。寝てたか」

「もう朝ですよ。今日からお返事を書くんですから、しっかり朝ごはんを食べてください」

小人は、サンタが起き上がったテーブルで、手紙の乗っていないところへと、すっかり冷えてしまったパイの紙包みを乗せ、フォークとナイフをサンタに握らせた。

「やれやれ、冷めたパイのあとでまた仕事なんて、因果な人生だ」

「文句言わない!」




読み通すのに、一週間かかるのだ。返事を書くにはその二倍以上かかる。

しかし、さすがにそこもサンタクロース一人ではかわいそうなので、どうしてもお願いされて、小人が手伝う時もあった。とは言っても、それもほんの少し。やっぱりほとんどの手紙の返事をサンタクロースが書き終わるまでは、二週間と二日掛かった。

その間も、サンタが読み終わって「プレゼントリスト」に書き連ねておいたおもちゃを、数えきれない小人たちが走り回り、こけつまろびつ用意していく。

サンタが手紙の返事を書き終わる端から、あらかじめ用意されていたプレゼントの包みへ、小人たちが確かめて同封し、最後にソリへとそれらが積み込まれれば、あとは旅立つだけだ。




「ああ~~~、帰りたい…疲れた…」

「何言ってるんですか!今から本番なんですよ!今日のためにやってきたんですから!」

サンタが上下揃いの赤い服に着替える合間、それを手伝う小人はまたサンタをいさめる。

「うるせい!こんなに働いてんだ!愚痴くらい言わせろい!愚痴を言いきってから仕事始めたほうが、俺ぁ具合がいいんだよ!」

「はいはい、わかりましたよ。支度ができたんですから、ソリに乗りましょう!あたたかい紅茶は、魔法瓶に用意しましたから!」

それを聞き、サンタクロースはげんなりと頬を垂らしてうなだれた。

「俺ぁテネシーのウイスキーじゃねえと元気が出ねえんだぃ…」

「はいもうそれで終わり!」

とぼとぼとドアを開け、真冬の極寒の中へとサンタは踏み出す。もちろん外は暗い雪だ。

「ううっ…!さみい…!」


風は強くなかったが、ちらちら舞い飛ぶ雪が視界を遮り、ちょっと先の景色さえ雪に煙って判然としなかった。

「…なあ、今年ぁよさねえかい?」

冗談でそう言っても、小人はもう口を開いてもくれず、じろりとサンタを睨むだけだった。

「行くよ。行きゃあいいんだろい…」

よっこいしょとソリへ腰かけ、今年も鼻を磨いて毛並みを整えてもらった二頭のトナカイの手綱を握ると、サンタはトナカイへ声を掛ける。

「あんちゃんたちよ、頼んだぜ!」

そしてトナカイたちが雪の中でいくらか蹄を掻くと、ふわっとソリは舞い上がった。


「いってらっしゃい!サンタさん!」

小人たちはサンタを見送って一生懸命手を振る。



サンタは知っていた。

地上が大雨だろうが、大雪だろうが、空へと飛び上がり、オーロラの間を縫う時にはそんなものは関係なく、この世のものとも思えない美しい景色に包まれるのだと。

それを実は心待ちにしているなんて、口にするのはちょっと恥ずかしいから、出立前には愚痴を言ってごまかす。

「ああ、いいぜ、トナちゃんよぉ。ロリンズで酔っぱらっても、こんな思いぁできねえ…」

そう言って手綱をちょいちょいと引くと、トナカイたちはサンタのためにオーロラの周りを舞うのをやめ、地上へと急降下を始めた。