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短編集111(過去作品)

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――本当にそうだろうか――
 と疑いがある。
 もし、似ているところがあるのなら、却って反発したくなるような気持ちになるのではないだろうか。他人なのだから、相手の気持ちが手に取るように分かってしまうと、自分のすべてを認めてしまうことになる。
 そんなことがありえるだろうか。皆自分に疑問を持ち、人に自分を認めてもらいたいから出会いを求めている。自分をすべて認めてしまうと、そこから生まれるものは、孤独だけしかないのではないだろうか。
 そう思った時に感じた父親の孤独であった。
 孤独であっても嫌な感じがないという。寂しくて仕方がなくても、最後は孤独に戻るという。自分を認めなければできない感覚ではないだろうか。
 父親は何かを悟ったのである。
 塩崎自身も、何か釈然としないものを感じながらも、血の匂いを感じ、絶えず血の匂いに何かを求めようとしているのを感じていた。
 今は里香を抱くことで血の匂いを感じることができる。だが、そう思っていたのも束の間、里香が別れを切り出してきた。
「あなたといると、自分を忘れてしまいそうなの」
「どういうことだい?」
「今までのあなたは、忘れていたものを思い出させてくれる人だったのよ。だからあなたn惹かれたし、忘れていた何かを思い出せてもいたの。でも、今はそれができなくなってしまっているのよね」
 話をしていて、里香の身体から柑橘系の香りがしていた。それは鼻を突く匂いで、感覚が麻痺してしまうのではないかと思うほど強烈なものだった。
「今日の香水はかなりきついね」
「そんなことはないわ。いつもと同じよ」
 と言っていたが、考えてみればいつもが結構きつい香水をつけていて、それを血の匂いが中和していたのかも知れない。
 逆に血の匂いを中和させようとしてきつめの香水をつけていたとも考えられる。
 ということは、匂いのきつさを自分で感じていたということになる。それだけ自分のことをよく分かっていたのだろう。
 匂いを自分で分かるというのは、不可能に近い。
 にんにくのたくさん入った餃子であったり、尾篭であるが、おならの匂いにしても、他人が臭いと感じることであっても、自分では感じることはない。最初は不思議で仕方がなかった。
 保護色というものがあるが、匂いにも自分に紛れる匂いがあるのかも知れない。
 匂いが紛れるというよりも、普段から発散させている匂いを自分だけが感じているから、他の匂いを発散させても、それがいくら強烈であっても、感じることがないのかも知れない。それが血の匂いだとすれば、自分の中で納得のいくものであった。
 別れを切り出した里香に対して、
――いったいどうしてなんだ――
 という思いと、
――やっぱりな――
 という思いが交差する。その中間に、血の匂いと、柑橘系の香りの強さが交互にやってきて、結局は孤独が見えてくる自分に気がついている。
 里香の中から香ってくる血の匂い。それは二人が兄妹ではないかという疑問を投げかけていた。
 父親に感じた血の匂い、里香に感じる血の匂い。まるで匂いに吸い寄せられたかのような気がする。
 里香がそのことに気付いたのは、お互いの性格が似すぎているところに気付いたからだろう。あまり似ていると、惹き合うはずのものが反発のエネルギーに変わってしまったりする。
 夜と昼とで人間が変わってしまうところ、AB型だから仕方がないと思っていたが、父親の血を引いているのであれば、それも当たり前のことである。
 離婚することで何かに気付いた両親、そしてお互いに自分たちのことに気付いて別れる決心をした里香、そこにはネガティブな部分は見当たらない。
 これから兄妹としてやっていくことは難しいだろう。お互いが似すぎていることと、少なくとも身体を重ねて確かめ合った愛がそこには存在していたのだから。
 孤独が好きになったのは、里香と別れてからだ。孤独が好きだというよりも、自分を省みることのできる時間、自由になる時間、そこに自分を見出したといっても過言ではない。
 里香にしてもそうだろう。
 お互いに新しい恋人を想像することができないのだから、相手にも同じである。里香が他の男性と一緒にいる姿を想像できないのは、贔屓目に見ているからではない。里香と別れてから、顔すら忘れてしまいそうになっている。だが、どこかで風が吹いてくると感じるのだ。
 風の強い日、会社から早く帰ることで、メガネを変えたくなった心境はそのあたりにあるのかも知れない。

                (  完  )





作品名:短編集111(過去作品) 作家名:森本晃次