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トラック転生したら郵便ポストだった件

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(どういう状況なんだろう……『待ってなくていい』なんてハガキ送るってことは……ひょっとして刑務所? あんなに慎ましそうな奥さんなんだから旦那さんの方もヤクザもんとかじゃないよなぁ……)
 俺は宛先の方も読んでみると交通刑務所とあった。
(トラックの運転手とかで人を撥ねて死なせちゃったとか? もしそうならさ、不可抗力ってのもあるよな、俺の時みたいにさ……待てよ、もしそうだったら? 俺、自分を被害者だとばっかり思ってたけど、あの路地からいきなり大通りに飛び出したら避けきれないよなぁ……でも人を死なせちゃったら交通刑務所かなんかに入れられちゃうのかな……だとしたら、俺、ある意味加害者じゃん……)
 多分、ポストになる前の俺だったらこんなことは考えないだろうな、とも思った。
 単純にヒマだからという面ももちろんあるんだけど、何だか物事を色んな方向から見られるようになったような……。

 それからひと月あまり……お祖父ちゃんお祖母ちゃんに手紙を出す女の子は現れなかったが、他の投函者は常連と言うか……。
 不幸の手紙は定期的に出しに来るし、パパ活のJKも……。
 そしてもちろん、新聞配達とお掃除のおばさんも3日に空けずに投函してくれる。
 こっちから見ればすっかり顔なじみだけど、向うから見れば俺はやっぱりただの郵便ポストなのかな……と思うとちょっと寂しい。
 でもね、集荷のおじさんだけはちょっと違う、いつも何かしら話しかけてくれるんだ。
 思った通り、おじさんは高校を卒業すると郵便局に勤め始めて、集荷も配達も経験してた。
 真面目で郵便局の仕事を愛してる人だから出世もしたらしい、大卒じゃないから町の郵便局の局長止まりだったらしいけど、元々会議室なんかよりも現場が好きな人だから満足してたみたい。
 そして、定年を迎えると集荷の仕事を希望したらしい、配達ならもっと良かったらしいんだけど、定年過ぎてバイクはやめておけ、と止められたんだそうだ。
 俺は旧式ポストだけど、実際箱型に交換する計画はあったらしい。
 その時に反対してくれたのはおじさんだったらしい、欅の大木と旧式ポストが並んでいる風景はこの街の象徴のひとつだからと主張して。
 俺も箱型よりもこの形で良かったと思ってる、ちゃんと地に足がついてる感じがするだろう? 箱型のはパイプで浮いてるから軽快と言えばそうかも知れないし集荷もやりやすいんだろうけどね。
 でもさ、箱型だったらおじさんも話しかけてくれなかったような気がするよ。
 やっぱり話しかけてくれればうれしいし、こっちからも話しかけてみる気になるよ……通じないけどね。
 それとね、6月になると雨が多くなるだろ? やっぱり欅さんの存在はありがたいよ。
 全然濡れないわけじゃないけどさ、やっぱり傘みたいになってくれてるからずぶぬれにはならない、別に濡れたからって寒いとか冷たいとか感じるわけじゃないんだけど、気分的に滅入らないからね。

 で、ある日のこと、夕方の集荷間際にいかにも『しょぼくれた』感じのお爺さんが封書を出しに来た。
 いや、『しょぼくれた』なんて言ったら失礼なのかも知れないけど、小柄で痩せてて、着ているものも擦り切れそうな感じだし、何よりオドオドした感じがそう見えたんだ。
 なんだか投函するのをためらってるみたいだ……何度もジャンパーの内ポケットから手紙を出したりしまったり……一度なんか投函口まで持って来たけど思い直したみたいに引っ込めることまでしてた……。
 こっちはもう興味津々さ、だってどんな手紙か気になるじゃないか。
 すると、いつもの赤い軽バンがやって来たんで、お爺さんは慌てて投函した。
 そういうきっかけが必要だったんだろうね、あんなに迷ってたところを見ると。
 で、宛先を見ただけで普通の手紙じゃないってわかったね、だって新聞の活字を切り抜いて貼ってあるなんて普通じゃないに決まってる。
 急いで中身を読んでみると……案の定、脅迫状だった。
<娘を預かっている、返してほしければ五十万円用意して明日の昼までにセブン〇レブン▽△店のゴミ箱の下に置いておけ>
 俺はそそくさと立ち去っていくお爺さんを目で追った、道を渡ったけどビルの隙間に身を隠すようにしてこっちを見ていた、ちゃんと集荷されるのかどうか見届けたいみたいだ。
「やぁ、今日も一日ご苦労さん」
 集荷のおじさんはいつものように俺の頭をポンと叩くと蓋を開けた。
「ん?」
 新聞を切り抜いた宛名の手紙、誰がどう見ても怪しい、おじさんは辺りを見回した。
(道路の向かい側だよ! ビルの隙間に隠れてるお爺さんが出したんだ!)
 俺は心で訴えた……何とか通じて! 気が付いて!
 すると、おじさんは俺の方に振り返った……俺の必死の訴えが通じたのか?
 そしてビルの隙間からすっと出て来て立ち去ろうとしていたお爺さんを見つけ、その顔を脳に刻み込もうとするかのようにじっと見つめていた……。

 それから二日間、集荷には別の若い局員がやって来た。
(誘拐事件はどうなったの?)
 俺はそう心で訴えたが、まるで反応はない……一昨日おじさんに通じたような気がしたのは偶然だったのか?
 そして三日目、赤いバンが俺の前に停まると、降りて来たのはいつものおじさんだった。
「なあ、お前、テレパシーかなんか使えるのか? あの日、頭の中に呼びかけて来る声が聞こえたような気がしたんだが……」
 おじさんは集荷を終えると、俺にもたれかかるようにして話し始めた。
「あの手紙な、お巡りさんと一緒に届けたんだよ、明らかに怪しかったけど勝手に開けるわけにも行かないからな……案の定身代金を要求する手紙だったよ、私には絵心はないが、記憶を頼りに似顔絵を描いてもらったんだ……それもあってすぐに身元は割れたよ、生活保護を受けてる独り暮らしの爺さんだった、でもな、誘拐したわけじゃないぜ、結局のところ十二歳の娘さんの狂言だったわけさ、そうじゃないかと思ったよ、身代金五十万はどう考えても少なすぎるからね」
(そうだよな~)
 俺ももしかして自分の読み違いで、本当は五千万円だったんじゃないのかと思ってたくらいで……。
「女の子の両親は離婚協議中でね、どっちが親権を取るか言い争いが絶えなかったそうだ、女の子は自分が誘拐されれば両親の仲が元に戻るんじゃないかと思ったらしい、それで顔見知りだった爺さんに狂言誘拐を持ち掛けてね、爺さんもアパート代だの電気代だの滞納してて苦しかったんで、ついその話に乗っちまったってわけだ、五十万円ってのは切実な金額だったってわけさ」
 おじさんは軽く笑って後を続けた。
「まあ、爺さんも女の子も厳重注意で済むらしい、良かったよ、私が大好きなこの街でそんな事件が起きなくてさ……両親も離婚を考え直すみたいだよ、子はかすがいって良く言ったもんだな、どちらもさ、連れ合いがどれだけ娘を大事に思ってるか身に染みてわかったらしいや……さてと……」
 おじさんは俺にもたれるのをやめて帽子をかぶり直した。