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トラック転生したら郵便ポストだった件

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(これ、『不幸のメール』みたいだな……ああ、そうか、そういや調べたっけな、元々は『不幸の手紙』だったんだよな……あの人、『不幸の手紙』を受け取っちゃって、怖くなって指示通りにしたのかな……いや、待てよ、文面の指示は3通だよな、10通もあるってことは、不幸の手紙を受け取っちゃって気味が悪いから指示通りにした、ってことじゃないよな……)
 俺は女性の口元を思い出し、改めてゾッとした。
(気が弱そうに見えたけど、なんか不満を抱えてるのかな……そのはけ口にこんなハガキを……)
 なんだか人の心の奥底に眠るドロドロしたものを垣間見たような気がした。

(お、今度はJKかな? 可愛いじゃん)
 学校の帰りだろうか、セーラー服を着た女の子が近付いて来る。
(おお、黒髪ロング、やっぱ良いなぁ)
 いわゆる清楚系、バストもヒップもやや控えめと言った感じだがスリムな体型にはむしろしっくりと馴染む、リップくらいはつけているのだろうが化粧っ気もほぼない。 
 今時珍しい、などと言っては言い過ぎかもしれないが、大人しくて控え目な感じがする娘だ、目鼻立ちもすっきりと和風寄り。
(いいなぁ……郵便ポストになる前に会ってたら放っておかないんだけどなぁ……)
 そう思うには思ったが、正直なところ俺はちょっとばかりオクテで好みのタイプの女の子の前ではアガってしまう、まあ、それ以前に『ヲタク』っぽい見た目が敬遠されがちではあったが……。
 JKらしき娘は通学バッグから教科書を取り出すと、挟んであった封書にちょっとお祈りするようなしぐさを見せて投函した。
(へぇ、もしかしてラブレター? 今時ちょっと珍しいけど、そう言うちょっと古風なのも良いよなぁ……)
 そう思いながらその後ろ姿を見送ると、俺は封書の中身を見た……何となく盗み読みしている様で気が引けないでもなかったが、誘惑には勝てない……滅茶苦茶ヒマだし。
(どれどれ『パパ、この間はありがとう』……あれ? ラブレターじゃなくて父親に宛てた手紙か? どういう事情があって別々に暮らしてるのかな……)
 そんなことを思いながら先を読み進める。
(『ヴィトンのバッグ、高かったでしょう? すっごくうれしかった』……父親は結構金持ちなのかな?『今度会う時は持って行くね……パパとの濃厚な時間、思い出すだけで〇れてきちゃう……』え? どういうこと?……『パパ、すっごく情熱的で、あたし、何度も何度も〇っちゃった』 え~!? 援交かよ! パパ活ってやつ?)
 その先、かなり赤裸々な描写が続いたがR指定にするつもりはないのでここでは割愛しておこう……さもなければ伏字だらけになるし。
(まいった……見かけによらないってその通りだな、まあ、相手のオッサンがあの娘に入れ上げるのはわからないでもないけどさ、でもまさかあんな清楚系の黒髪ロング美少女がねぇ……)
 その後、読み終えたばかりの赤裸々な手紙と、去っていく時に見つめていたJKのヒップラインがちらついて、身動き一つできない俺を悩ませたのだが……。

 カチャ、パタン。

 妄想に耽っていると、いきなり俺は腹の蓋を開けられた。
 見ると年配のおじさんが俺の腹の中から手紙をかき集めている。
(ああ、集荷の時間なのか……でもこの郵便屋さん、どうしてこの歳でまだ集荷の仕事してんだろう?)
 おじさんは手紙を袋に詰め終え、俺の腹を元通りに閉めると、俺の頭をポンポンと軽くたたいた。
「今日もご苦労さま」
(あ、いえ……どうしたしまして、俺はただ突っ立ってただけなんで……この人、郵便屋さんの仕事が好きなんだなぁ……そうか、定年を迎えたけど郵便に関わっていたくて嘱託やってるとか?)
「近頃は手紙も減ったねぇ、私がまだ若くて集荷の仕事してた頃は一回りすると袋がパンパンに膨れたもんだけどね……まあ、メールの世の中になったからね、仕方がないんだけど」
 おじさんはちょっと寂し気にそう言った。
「また明日もよろしくな、私ももうしばらく頑張るから」
『はい!』って大きな声で明るく返事をしたかった……おじさんに伝わるはずもなかったが、おじさんは『じゃあな』と笑顔を見せて、赤い軽バンに乗り込んで行った。
(郵便ポストになってから、人に話しかけられたの初めてだなぁ……当たり前か……でもなんだか嬉しいもんだなぁ……)

 その後は訪れる人もなく、夜が更けて来るとシトシトと雨が降り出した。
(参ったなぁ……昔話の笠地蔵みたいに何か被せてくれる人はいないかなぁ……)
 そんなことを考えていたのだが、ふと気づいてみるとそんなに濡れていない……。
(あ、そうか、欅さんだね、傘みたいになってくれてるんだ……ありがとうございます)
 そう心で呼びかけてみるが、相変わらず欅は無言のまま……。
(でも、守られてるのは間違いないよな……)
 そう思いながら眠りについた。

 キキッ。
ちょっとさび付いた自転車のブレーキ音で目が醒めた。
(まだ空が白みかけたばかりだよ……ずいぶん早いな……)
 それもそのはず、自転車の前のカゴはもちろん、荷台にまで新聞がうず高く括り付けられている。
(ああ、新聞配達かぁ……こんなに朝早かったんだ……)
 人間をやってた頃は8時前になんか起きたことがなかった、1限目の授業がなければ9時過ぎ、そもそも1限目に授業がある単位は出来るだけ避けてたから8時起きだって辛かった……郵便ポストは腕時計も目覚まし時計も持ってないから今何時なのかはわからないけど。
(人間だった頃の俺と同じくらいか……学生かな?)
 その彼はジャンパーの胸ポケットからハガキを取り出すと、自転車からは降りずに投函し、立ち止まった時間のロスを取り戻そうとするかのように、立ちこぎで走り去って行った。
(誰に出したんだろ……)
 俺は早速文面を読み始めた。
 
<体の方はどう? おふくろももういい歳なんだから無理すんなよ、俺の方は大丈夫、ちゃんと飯食ってるし元気にしてるよ、大学の方もまずまずだ、卒業まであと2年、就職したら楽させてやるからな>

(田舎のおふくろさんかな? まず間違いないな……新聞配達しながら大学に通ってるのか、大変だな……なんか、俺とはえらい違いだな……)
 親のすねをかじっていながらダラダラ過ごしていた自分をちょっと恥ずかしく思ったが……後悔先に立たずだ。

 しばらくすると、今度は40代半ばくらいの、いかにも慎ましそうなおばさん、やっぱり自転車に乗ってる。
 やっぱりかなり早い時間、まだ空は明るくなり切っていない。
 服装はと言えば、薄いブルーの作業着に髪を覆う三角巾。
(こんな早い時間から働いてるのか……会社の清掃かなんかかな……)
 おばさんはやっぱりハガキを取り出すと、ちょっと拝むようにしてから投函して行った。
(誰に出したんだろう……)
 俺は文面を読んでみた。

<俺のことを待ってなんかいなくていい、なんてお手紙は送らないで。 あたしはいつまでも待ってますから……家は手放しちゃって今はアパート暮らし、6帖一間にキッチンだけですけど、一人じゃ広すぎるくらい……あなたの帰りを待ってます>