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トラック転生したら郵便ポストだった件

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(これは一体…………)
 俺は呆然とした、気が付くと郵便ポストになっていたんだ、それも赤い丸型の旧式のやつ。
(一体、俺に何が起きたんだ?……)
 意識が戻ったばかりでまだぼうっとしていた頭が次第にはっきりして来る……。
(まさか……こんなことってあるのか?……)

 そう言えば……意識が戻ったばかりなので、それがどれくらい前のことだったのかよくわからないが、俺はトラックに撥ねられたんだった……。
 新作ゲームソフトを買いに行く途中、スマホが鳴ったんで俺は自転車をこぎながらポケットから引っ張り出した。
 ゲーム好き仲間からのラインだった。
<ドラゴン・ファンタジーの新作、もうやったか?>
<今買いに行くところ>
<スゲー良いぜ、神ゲーだよ>
<マ…………
 マジ? と打とうとした途中だった。
 けたたましい急ブレーキの音にはっと顔を上げると、でかいトラックのごついフロントグリルはもう目の前。
(え? なんか俺、ヤバくね?)
 なんだか不思議なくらい周りの動きがスローモーションに見えた、運転手が目玉をひん剥いて口を大きく開けて何か叫んでいるのがはっきりわかったくらいで……その気になればナンバープレートでさえ読めたかも……でも、もう手遅れだった。
 俺はトラックに撥ね飛ばされて郵便ポストにぶち当たり、道路に叩きつけられた。
(ドラゴン・ファンタジーの新作、楽しみにしてたのになぁ……あいつ、こんな時にラインなんかして来るんじゃねーよ……)
 まあ、冷静に考えてみれば自転車をこぎながらラインなんかやってた俺が悪いんだが……。
 意識はそこでぷっつりと切れ、気が付いたら郵便ポストになっていた。

まあ、そう言うわけなんだ、自分でも信じられないけど……。

(転生ってマジであるんだな……でもさぁ、郵便ポストはねーよなぁ、どうせなら勇者とか魔法使いとか、敵役だけど魔王とかでも良いし、なんならドラゴンとかの動物でも良いけどさぁ、郵便ポストじゃなぁ……この先どいう展開が期待できるってわけ? これって、クソゲーにも程があるんじゃね?)
 この期に及んでまだゲームのことしか頭にない自分に気づかないまま、俺は辺りを見回した。
 この風景には見覚えがある、俺の家の近所だ、つーか、俺がトラックに撥ねられた場所、この郵便ポストは俺がぶつかったやつだ、隣にそびえる欅にも見覚えがある……まだ小さい自分にこの街に引っ越して来た時は(わぁ、おっきな木だなぁ)なんて思ったものだが、いつの間にかそこにあるのが当たり前で、気にも留めなくなってた。
(改めてよく見ると、やっぱ立派な木だよなぁ……樹齢何年くらいなのかな……)
 転生前の俺は20歳の学生だった……学校に行くよりもゲームに没頭してる時間の方が長かったけど……引っ越して来たのは小学校に上がるタイミングだったから5歳かな?
(ってことは少なくとも樹齢15年か……いやいや、ぜってぇそんなもんじゃなぇよな、100年くらいは経ってるんじゃね?)
 季節は初夏、5月の陽光が俺を包み込んでくれている、陽の光がこんなに心地良いなんて……なんで気づかなかったんだろう?
(欅の葉っぱもこんもりと良く茂ってるよなぁ、これもお日様のおかげなんだろうな……待てよ? 郵便ポストになっちまった俺に意識があるくらいなんだから、こんな大木ともなれば意識くらいあるんじゃね? う~ん、考えるのは出来るけど喋れないのがもどかしいなぁ……テレパシーとか通じないかな?)
 俺はテレパシーを送ろうと集中した……けど、反応はない……向うには意識はないのか、それとも……。
(テレパシーなんて使ったことないもんなぁ……どうやったらいいのかわかんないや)
 俺は諦めて通りを眺めていることにした、だってそれしかやることがないんだから……。
 で、5分で飽きた。
(ゲームだったら5分もあれば門番のザコキャラとかバンバン倒して城の中に攻め込んでるんだけどなぁ……)
 俺は退屈が何より嫌いだ、ゲームならスイッチを入れさえすればスリリングな人生をバーチャルで体験できるんだが……。

(それにしても誰も来ないなぁ、まあ、今時郵便でもないもんな、メールで全部こと足りるからなぁ)
 そんなことを考えていると、小さな女の子がトコトコ近づいて来た、手にハガキを持っている。
(おっ、お客様第一号! いらっしゃいませ~郵便ポストにようこそ)
 俺はファミレスでのバイトの口調で歓迎した……まあ、何を考えても伝わらないんだけどさ。
 女の子は思い切り背伸びして、腕も精一杯伸ばして俺の口にハガキを投函した。
 ポトリ。
 腹に響く音が心地良い。
(誰に手紙出したんだろうな、読めたらいいのにな……あれ? 読めるぞ)
 どうやら自分に投函された手紙は読めるらしい、俺は腹の中に溜まっていた手紙を片っ端から漁ってみた、ハガキだけじゃなくて封書ですら中身が読める、まあ、請求書だの領収証だのが多くて、あんまり面白いものはなかったけど。
(どれどれ、あの子のハガキは……と……)

<おじいちゃん、おばあちゃん、おたんじょうびのプレゼントありがとう、なつやすみにはまたあそびにいくね>

(おお、可愛い……一生懸命書いたって感じがするよなぁ、『プレゼント』のとこだけ字が大きくなってるのってカタカナ覚えたてなんだろうな、それとも教わりながら書いたとか?)
 この手紙を受け取ったお祖父ちゃん、お祖母ちゃんのニコニコ顔が見えるようだ。
(そういえば祖父ちゃん祖母ちゃんにも随分会ってないなぁ)
 子供の頃は毎年夏休みには遊びに行き、近くの小川で遊んだり、祖父ちゃんに釣りを教わったりもしたものだが……。
(中3の頃からかなぁ……たいして勉強もしてなかったクセに『高校受験だから』とか言って親について行かなかったんだよな……結局、夏期講習以外はゲーム三昧だったわけだけど……その後も『部活が』『大学受験が』『バイトが』とか言ってパスしっぱなしだったんだよな、何しろ親がいないと『ゲームばっかりやって』とか言われないで済むのが心地良かったからなぁ……どうしてるかな、祖父ちゃんと祖母ちゃん……)
 そう考えると無性に会いたいなぁと思うのだが、郵便ポストの身ではどうにも……。

 しばらくするとアラフォーくらいの気が弱そうな女性が俺の前に立ってハンドバッグをごそごそやり始めた。
(はいはい、どうぞ投函してください、せめてものヒマつぶしになるもんで)
 女性は辺りをきょろきょろと見回すと、一束になったハガキを一度に投げ込んだ。
 俺の腹の中でそれがポトリと音を立てた時、女性の口元がにやりと歪んだが、女性はすぐに気の弱そうな顔に戻ってそそくさと立ち去って行った。
(なんかちょっと怖い感じだったけど、さてさて、何が書いてあるのかな?……げ、なんだこりゃ)
 ハガキのあて先はバラバラだけど、文面は一緒だった。

<このハガキを受け取った人は、3日以内に別々の人に3通出さないと不幸になります>