短編集110(過去作品)
出会い橋は人が出会うところ、ひょっとして裏を返せば、別れの場でもあるのかも知れない。それを知っている人が、反対側から見ている。彼らは決して人を見ようとしていない。
粕屋も反対側へと移った。下の川を覗き込むとそこに写っている自分の顔がはっきりと見えるが、まわりの人は分からない。写っていないのだ。
――自分の好みの女性が写っているかも知れない――
恐る恐る見るのだが、そこには自分しか写っていない。まだ、粕屋に自分の好みの女性は浮かんでこないのだ。
今までにここから見た女性の中で、何人が粕屋のイメージを抱いただろう。きっとその人は粕屋と初めて会った時に、
「初めてお会いした気がしない」
というに違いない。
これからはきっとその言葉に恐怖心を感じることになることを、川面に写った自分の顔はそう語っているように見えた……。
( 完 )
作品名:短編集110(過去作品) 作家名:森本晃次