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オオサカタロウ
オオサカタロウ
novelistID. 20912
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Shellshock

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「お前は自分のことしか頭にない。それを証明したるわ」
 稲場は上着ごと右手を持ち上げた。墨岡が上着から手を抜き、マグナムキャリーの銃口が稲場に向いたとき、遠くで圧縮空気を打ち出したような抑えた音が鳴り、ライフル弾が墨岡の手首から先を吹き飛ばした。
 岩村は、サプレッサーで押し殺された銃声を聞いて首をすくめた龍野に言った。
「弱みっちゅうのは、自分の命を差し出す覚悟ができたときは、武器になる」
 龍野がよろめくと、岩村はその体を掴んで引き倒し、警察官だったときの動きを体に呼び起こしたように上着から手錠を抜くと、龍野の右手首を配管にくくり付けて言った。
「よう見とけ」
   
     
 大橋は、墨岡の右手を吹き飛ばした弾が飛んできた方向を見極めようとしたが、発射炎は上がらず、少なくとも敷地の反対側からだということしか予測できなかった。八女は一階へ続く階段を早足で下りると、シックナーの裏側に回り込んでVZ61のストックを展開させた。
 別所は大橋の背中を一度叩き、言った。
「引き上げましょう」
「八女はどこに行った?」
 大橋はそう言ったが、すでに体は出口の方向へ動いていた。八女には『仕切り直す』という頭がない。待ち伏せされたのはこっちだと理解できても、それを体に伝えるまでの回路が切れている。松戸は八女のそういう部分を気に入っていたに違いないが、道連れはごめんだ。別所が大橋の露払いをするように先頭に立ち、外に出た。大橋も続いて外に出ると、ただの邪魔な棒切れと化したMP5SD6を片手に持ったまま後ろを振り返り、無線のスイッチを押した。
「八女、戻ってこい。中止だ」
      
    
 稲場は、右手を失ってその場に座り込んだ墨岡に駆け寄った。
「おれは撃ってない」
 墨岡は首を横に振りながら、後ずさった。その目に浮かんだ恐怖に対して言い訳をするように、稲場は繰り返した。
「おれは撃ってない!」
 パニックに陥った墨岡は、右腕を庇うように巻き込みながら、地面を蹴って稲場から離れようとした。
「やめてくれ、やめてくれ!」
 稲場は目を伏せた。ポケットから手を抜いて、言った。
「これで、人は殺せん」
 その手に握られたピンク色の銀玉鉄砲を見て、墨岡は動きを止めた。稲場は歯を食いしばり、決して元通りにはならない亀裂から目を逸らすように俯いた。誰がどうやって、銃ごと手を撃ち落とせるか。そんなことは、分かりきっている。稲場は食いしばった歯を解放して、叫んだ。
「佐藤! 撃つな!」
    
    
 八女からの返答はなく、前に向き直った大橋は、雑草の隙間が少しだけ開いていることに気づいた。重みで左右に分かれているのではなく、根元から折れたようになっている。ほとんど足元とも言える位置に置かれた四角の箱は、草にできるだけ紛れようとするような緑色に塗られていた。大橋はそれを見たとき、別所の体を強く押した。同時にクレイモア対人地雷が起爆され、別所の体に数百発のベアリング弾が突き刺さった。別所のすぐ後ろにいた大橋は左腕をMP5SD6ごとミキサーにかけられたように砕かれ、衝撃で地面に倒れ込んだ。
 起爆スイッチを捨てた村岡は、全身を雑巾のように砕かれて仰向けに倒れた別所を見下ろしながら、柏原に言った。
「三人ちゃうんか?」
 柏原は肩をすくめると、建物の中へ這って戻ろうとする大橋の後ろをついて歩き、建物の中へ入ってようやく体を起こした大橋の前に立つと、銃声が抜けない場所まで来たことを確認してから言った。
「わざわざどうも」
 大橋が顔を手で庇うよりも先に、柏原はモスバーグM590の銃口を向けて引き金を引いた。

    
 青山は、最初に鳴った銃声を聞いてずっと伏せていたが、八女が目の前を横切ったことに気づいて、体を静かに起こした。元の出口から出れば、ランドクルーザーに辿り着ける。しかし、その鍵を持っているのは八女だ。車を使わずに、どこまで逃げられるだろうか。
 つい今、爆発音と銃声が鳴ったのは陸側の入口だった。海側の入口は静かだが、そこへ辿り着くには、工場を反対側まで横切らなければならない。青山は二階を見上げたが、その薄暗い階段を再び上がる気にはなれず、シックナーの影にできるだけ隠れながら、海側の入口へ向かって歩き出した。
  
  
 八女は、敷地の反対側で影が不自然に揺れたのを見て、その影の主が階段を下りていることに気づいた。さっき稲場が叫んだ『佐藤』という名前。銃声と結びつけるなら、一階へ降りてきているのが本人と見て、間違いないだろう。松戸は、一方的に殺す側と殺される側が決まっているだけで、そこに本当の『戦闘』は存在しないと口癖のように言っていた。お互いの作戦が決まった時点で、結果は決定している。頭では理解していても、自分が殺される側に回ったということは、本能の部分が頑なに認めようとしなかった。VZ61の銃口を静かに振りながら、八女は影が降りて行った後にどこへ向かうか、その地形から想像した。コンクリートの塊が遮蔽物になっていて、見通しが悪い。外側から回り込むように移動すると、八女は影が見えた位置の真正面まで来て、銃口を向けた。ワイヤーストックが頬に食い込んで右手に力が籠ったとき、すぐ隣で真っ暗闇に見えた地面が動き、伏せていた体を起こした佐藤がFNCを構えながら言った。
「銃を下ろして」
 それまで隠されていた気配が全身に襲い掛かり、八女は反射的に銃口を向けようとしたが、先に頭へ向けられた銃口と目が合った。佐藤が答えを引き出そうとするように少し首を傾げ、八女は右手をグリップから離した。佐藤は銃口を掴まれないだけの間を保ったまま、八女がVZ61を地面に置くのを確認して、言った。
「歩いて」
 八女は言われた通りに歩き始めた。足音に混じって微かな金属音が聞こえたとき、後ろを歩く佐藤がスリングを肩に通して、ライフルから手を放したことを悟った。
    
     
 稲場は、海側の入口に目を向けた。レガシィB4の運転席が、宇宙の果てのように遠くに感じる。右手首からの出血で気を失いかけている墨岡は、自分の体を掴む稲場の手を振りほどいた。
「お前……、俺は連れていかんでええやろ」
「何を言うてんねん」
 稲場は正気を失ったように、墨岡の体を力任せに掴むと、再び引きずるように起こした。自分でも、どうして手が助けようと動くのか、その説明はできない。ただ、ほとんど本能的な部分で指示が出ているように、体が言うことを聞かない。
「ごめん、稲場。ほんまに、もうええから」
 墨岡が呟くように言い、その口調の弱さに驚いた稲場は、思わず手を離した。墨岡の体を巡っていた血は、ほとんどが砕かれた右手首の付け根から流れ出していた。やがてその目から光が消え、墨岡が死んだことを理解した稲場は、ようやくうなずいた。
「分かった」
 稲場がそう言ったとき、岩村が後ろから肩をぽんと叩いた。
「お開きでもよかったんやけどな。佐藤が、どうしても譲らんかった」
作品名:Shellshock 作家名:オオサカタロウ