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自殺と事故の明暗

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「みゆきちゃんのお話、ちょっとそこで聞かせてもらったけど、面白い発想だと思うわ。確かに川島さんが自殺を試みたのは、凛子さんをひき逃げした気持ちからの自責の念もあったと思うんだけど、それよりも、彼のことを想ってのことだったんじゃないかしら? 相手はきっと表に出ることのできない立場の人、例えばスキャンダルが表に出ると、それで終わりの芸能人とかね。交通事故だけであれば、まだ過失なので何とかなるでしょうけど、同性愛が絡んでいるとなると致命的。だから、彼を守るためと、凛子さんへの自責の念から、自殺を考えた。ひょっとすると、元々自殺をずっと考えていたのかも知れない。彼との間の自分のジレンマでね。でも、確か、川島さんというと、奥さんいたんじゃなかったんじゃないのかな?」
 となつみがいうと、
「確かに奥さんはいます。でも、こういう同性愛も一種の不倫になるのかしらね?」
 と、凛子さんが言った。
「いえ、同性愛者の場合は法律的な不倫にはなりません、だから訴訟や慰謝料問題は起きないのが普通ですが、逆に法律で決着できない分、厄介だとも言えるんです。精神的に落としどころを失って、自分の殻の閉じこもり、精神的に病んでしまったり、復讐の対象になってしまったりと、そこから先が別の犯罪や副作用のようなものを生んでしまうから、悲劇なんじゃないでしょうか?」
 と、服部刑事が言った。
「今回の川島さんの自殺についても、凛子さんが遭われた事故にしても、偶然の積み重ねなんでしょうけど、まさか、そこに同性愛のようなものが絡んでいるとは思ってもいなかったので、そこが一つの問題ですね。しかも相手が今の想像のように芸能人だったりすると、社会問題として大きな影を落とすことになるでしょうね」
 と辰巳刑事が言った。
「じゃあ、今回のこの一連の事件で、実際に得をしたという人は誰もいないんですよね。皆が皆、傷ついた。自殺する人、事故に遭って記憶を失った人、芸能人かも知れない助手席の男も、きっといつ露見するかと思い、ビクビクしているかも知れない。ひょっとすると、その苦しみを救ってくれていたのが川島だとすると、彼は彼のために命を落としたのだけれど、それが本当に最善の方法だったのかと言われることになるでしょうね。そう思うと、皆相手のことを思いやっているとしても、すべてに悪い方にしか言っていないような気がして、だから一人として得をした人がいないんでしょうね」
 今度の事件は、今ここで話し合っていた内容が、ほぼほぼ間違いのない内容だったようだ。川島も、死んでしまったことで、残された奥さんには、かなりの額が行ったようだ。何年も掛けていた生命保険、彼の給料ギリギリだったのだろう。保険会社の人が質疑にきたくらいだ。これも彼の奥さんに対してのせめてもの、償いのつもりだったのだろう。ひょっとすると、同性愛がバレた場合、自殺をすることを選択肢として持っていたのかも知れない。
 みゆきは、自分の発想と、目の付け所をまたしても、警察に示したようなもので、そこへよくもタイミングよく洗われたなつみが、冷静に推理していく。
「今回のあの姉妹にはやられましたな」
 と捜査本部では解決の打ち上げの席で、辰巳刑事と服部刑事がそういって談笑していた。
 しかし、有原家では、みゆきが一つの疑念を持っていて、それを姉にぶつけた。
「よくあの日、あのタイミングで凛子さんの病室に現れたわね」
 というと、
「実は私、看護師に好きな人がいるのよ」
 というではないか?
 まさかと思って訊いてみると、そのまさかだった。
「お姉ちゃん、それはないわよ」
 と言って、みゆきは腹を抱えて笑っていたが、それを見てなつみも急におかしくなってきた。
 この事件で、得をした人が一人もおらず、皆それぞれ苦しんだとおう悲しい事件であったが、その副産物はまさか自分の身近にいるなど思ってもいなかったみゆきが、腹を抱えて笑いたかった理由も分からなくもない。
「おねえちゃん、最後にいいとこどりだわ」
 と言うと、なつみも、一緒に大声で笑うのだった……。

               (  完  )



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作品名:自殺と事故の明暗 作家名:森本晃次