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短編集109(過去作品

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オンナともだち



                オンナともだち


 出会いには、偶然とタイミングが必要なのだということをずっと考えてきた。
 三十歳近くになっても女性と出会うこともなく、また男の友達がそれほど多いわけではない。友だちが少ないから女性と出会う機会も多くないと言えなくもないが、ここまで出会いがないと、あながち悪いのは自分ばかりのせいではないと思えてくる。
 確かに話題性に乏しく、引っ込み思案の男性が、女性と知り合う機会が多いということもない。知り合わないにはそれなりの理由があってしかるべきであるが、すでに自分と同年代の会社の同僚のほとんどは結婚していて、甘い新婚生活を思わせるような人もいたりする。
 女性と付き合ったこともないくせに結婚願望だけは当たり前にあるこの男、名前を境静雄という。結婚願望があるといっても漠然としたもので、女性を好きになって結婚するという過程をよく分かっていないだけに、漠然としたものになるのも仕方のないことだ。
 静雄にも、女性と知り合う機会がないわけではなかった。大学時代に、一人好きになった女性がいたのだが、最初はそれほど意識したわけではなかった。
 中学高校と、中高一貫教育の男子校だったため、女性を意識する頃はすでにまわりは男ばかりだったのである。
 女性を意識するようになって、男ばかりの空気が気持ち悪い時期があった。汗臭い空気に嗚咽を催したり、ニキビ面に気持ち悪さを感じたり、男子校特有の卑猥な会話に耳を塞いだりしていたが、卑猥な会話に関しては、耳を塞いでいるのに聞きたい気持ちが勝ってか、わざと聞こえるようにしていた。そのため、聞こえてくる会話は丸聞こえだった。
 まわりも必要以上に大きな声で話している。半分は知っていることへの自慢話のようなもので、今から思えば、
――何とも大人気ない――
 と感じるのだが、その頃は武勇伝の一つに思えてならなかった。自分も同じような経験を早くしてみたくてたまらなかったのだ。
 そのくせ、会話には嫌悪を感じていた。思春期の精神状態は不安定であるということは、本を読んだり、先生から話を聞いたりして分かっていたが、実感として味わうことで、何とも言えないむず痒さと、戸惑いがあったのも事実である。
 一番感じていたのは、劣等感だったかも知れない。
 中学の修学旅行でのことだった。皆で風呂に入ったのだが、ちょうど成長期の身体、しかも皆成長の度合いに差があることで、すでに大人の身体を思わせる友だちが何人もいたことには驚かされた。服を着ていても身体の大きさに圧倒されるのに、裸になっての成長度もさらにそれ以上である。
 コンプレックスを感じていた。しかもなかなか抜けることのできないコンプレックスである。確かに自分も成長していくであろうが、相手も成長していく。絶えず平行線で、近づくことのできないものだという思いが強かった。
 そのまま大人になったと思っている静雄は、その気持ちが性格にもそのまま表れていることに気付いた。
――まわりの人が自分よりも偉く見える――
 尊敬の念を持ってまわりを見るのは悪いことではない。しかし、それが卑屈に繋がると、決していいこととは言いがたいだろう。静雄は、自分がまわりに卑屈になっていることを分かっている。それは会話からも分かることで、人と話す時に、セリフの後で必ず自分自身をフォローしているように思えるのだ。
 そんな会話をする人は意外と静雄のまわりにも多かった。
――類は友を呼ぶ――
 ということわざがあるが、性格的に似ている人が集まるというのは、偶然だけでは片付けられない何かがある。お互いに意識して集まっているわけではないのに、一緒にいると自分と同じところを発見する。それが大きく見えてくるから自分と同じ性格だと思うのかも知れない。
 だが、会話のように形になって見えることは疑いようがない。きっとまわりの人たちも、
――似た者同士――
 と思っているに違いない。
 修学旅行で行った先が、会社に入って最初の社員旅行の先であるというのは偶然ではあるが、その時に出会いのようなものがあったかも知れないと思ったのは、かなり後になってからのことだった。
 萩、津和野、関西から出かけるには少し遠くも感じられたが、新幹線からバスをチャーターしての旅行であれば、それほど気になるものでもない。大企業などは海外で社員旅行だというのに、それほど大きくもない会社であれば、これくらいが精一杯なのかも知れない。
 津和野はこじんまりとした山間の街で、それほどたくさん見るところはないが、萩になると、結構観光するところはある。
 歴史には造詣の深い静雄にとって、萩は格好の観光地である。そもそも幕末、明治初期に興味を持ち始めたのは、中学時代の修学旅行で、この地、萩を訪れたのがきっかけだった。
 歴史にはそれまでも興味があったが、どうしても戦国時代へと目が行ってしまい。幕末までは考えなかった。江戸時代の政治についての授業が面白くなかったというのもあるだろうが、戦国時代の短い間での歴史の動きを華やかさとして見ていると、どうしても他の時代が地味に感じられる。特に授業のカリキュラムの関係で、幕末はそれほど重要視した授業になっていなかったのも事実で、そういう意味では萩を訪れなければ、好きな時代は戦国時代という狭い範囲だけで終わっていたかも知れない。
 幕末や明治を気にして勉強していると、今度はそれ以外の時代にも目が向いてくるようになった。大化の改新から奈良時代、源平争乱の時代と、興味深い時代は他にも出てくるではないか。
 実は他の時代に興味を持った理由は別にあった。大学に入って友達になったやつが歴史が好きで、話し方を聞いていると、
「お前もそれくらいは知っているはずだ」
 とでも言いたげに話してくる。静雄が歴史を好きだということは知っているので、そのつもりで話をしているのだろう。それにしても随分思い込みの激しい友だちだったことも事実だが、今さら、
「何それ、ちゃんと教えてよ」
 などと口が裂けても言えない。せっかくの友だちの熱弁に水を差すようなことをしたくなかったからだ。
 彼も自分の熱弁に入り込んでいるせいか、話を静雄に振ってくることはなかった。それが不幸中の幸いとでもいうべきか、相槌を打っていたが、疲れだけは残ったものだ。
――これではいけない――
 時代に好き嫌いがあるわけではなく、時系列で勉強すれば面白いということが分かっているので、本を読んで勉強した。おかげで、話題に対して苦手な時代はあるが、一通り会話に参加できるほどにはなっていた。それでもさすがにマニアほどの会話をできるはずもなく、相槌を打つことに徹底していた。
 それでもよかった。話は楽しかったし、遺跡を訪ねてみたいと思うようにもなっていた。関西に住んでいると奈良や京都にも近く、休みの日は歴史探訪としゃれ込むことも多かった。
作品名:短編集109(過去作品 作家名:森本晃次